石破茂新首相は鳥取県という日本では人口最小県の選出ということもあり、「地方創生」を目玉政策に掲げています。総裁選挙の時から「ブロックチェーンやNFT(非代替性トークン)の活用を通じて、食や観光体験など地域の持つ多様なアナログの価値を世界からも称賛されるようなレベルに高め、その価値の最大化を図る」と主張していました。

 と同時に、「ネット環境の整備とデジタル化によって、都市部との情報格差ゼロの地方を創出し、遠隔教育や医療、福祉、ビジネスなどの分野における地方の人材確保を進めたい」とも語っていたものです。

 要は、国際的に注目を集めているデジタル技術を基盤産業に位置づけ、「東京一極集中を是正し、地方の持つ潜在力を最大化させる」、そして、「地方への企業進出やスタートアップ企業を後押しするインセンティブを整える」という試みに他なりません。

 日本はGDPの規模でも一人当たりのGDPでも、2000年には世界第2位だったものが、今や上位20位にも入れないほどです。生産性の評価においても、OECD加盟38か国中、日本は30位と振るいません。その最大の原因は、日本におけるデジタル化の遅れでした。

 つまり中国を筆頭に世界で飛躍的に進むデジタル化の流れに乗り遅れてしまったのが日本なのです。そのため経済的な疲弊が深刻化する地方においては、石破政権の唱えるデジタル化を通じた地方創生には期待が集まっています。

 とはいえ、石破氏は安全保障問題に詳しく、軍事オタクとしては有名ですが、ブロックチェーンやNFT技術については素人同様であり、具体的な政策に落とし込むには地方創生担当副大臣を務めた経験を買われデジタル大臣に任命された平将明氏に委ねることになりました。

 これまでデジタル化の推進役は河野太郎衆議院議員でしたが、自民党の総裁選では全くと言っていいほど支持が得られませんでした。上から目線が党員からも同僚議員からも嫌われた結果です。その結果、デジタル化の仕事は平議員にお鉢が回ってきたと言えます。

 実際、Web3技術を活用した「地方創生2.0」政策は仮想通貨やブロックチェーンなどに詳しい平議員が石破氏に吹き込んだ政策そのものですから。日本はアニメやゲームの分野では世界をリードしてきました。今後はゲーム業界でも本格的なWeb3やブロックチェーン技術が活用される状況が生まれています。

 具体的にはステーブルコインが出てくるようになれば、メタバース空間に新たな経済圏が生まれる可能性も高まるはずです。そうなれば、アニメやゲーム産業で培ったノウハウがブロックチェーン技術と合体されることになり、分散型IDやデジタル政府・行政にも応用できる道が開かれることになります。

 実は、日本の自治体では2026年3月までに業務システムを政府クラウドへ移行する大規模なプロジェクトが進行中です。「自治体情報システム標準化」計画と呼ばれ、住民基本台帳、印鑑証明、個人・法人・固定資産税、介護保険などのシステムを一元化し、コストを抑え、公共サービスに関するあらゆる手続きがスマホを使えば60秒で完結できるという触れ込みで、予算は7000億円。夢のような計画ですが、現実は簡単ではありません。

 なぜなら、多くの自治体では専門スタッフの確保ができず、作業の遅れが見られ、本来の目的であったコスト削減どころか、逆に予算の大幅増加が見込まれているからです。要の政府クラウドも見通しが立っていません。国内企業によるクラウドサービスも「絵に描いた餅」状態です。結局、アメリカの大手クラウドサービス会社に依存せざるを得ないため、地方創生も海外企業頼みという情けない状態に甘んじることになるかも知れません。

 石破首相には乾坤一擲、安全保障にせよ、デジタル化にせよ、アメリカ一辺倒から脱却し、中国、インドなどBRICSやアセアン諸国との連携に新たな活路を見出して欲しいものです。その意味でも、11月18日からブラジルで開催されるG20首脳会議では、世界が直面する様々な課題を解消する上で、日中が音頭を取り、デジタル化社会の未来戦略を描く格好の舞台になることを期待しています。