パリでは「平和の祭典」と呼ばれるオリンピックが開催中です。しかし、世界各地で戦争や自然災害が相次いでいます。注目すべきはアメリカもロシアもかつての冷戦時代とは大違いで、国際的な影響力を失ってしまったことです。いずれも多額の負債を抱え、政治的にも経済的にも苦境に陥っています。実は、日本も例外ではありません。

 一方、中国は内外に向けて、発展途上国からアメリカに肉薄する経済大国に変貌したことを宣言。不動産バブルの崩壊が問題視はされていますが、習近平体制は揺るぎを見せていません。

 世界最大の電気自動車「テスラ」の創業者イーロン・マスク氏曰く「中国は世界経済を支える存在だ。特にインフラ整備には格段の投資を行い、大きな成果を上げている。早晩、アメリカを抜き、世界最強の経済・技術大国になるだろう」。

 そんな中、中国が過去10年に渡り推進してきたのが「一帯一路」計画に他なりません。世界の経済圏を一体化するという遠大な目標に基づくプロジェクトです。アメリカも似たようなインフラ投資計画を推進しようとしていますが、明確な未来ビジョンも資金的な裏付けも希薄であるため、前途多難と言わざるを得ません。

 14億を超える人口を擁する中国を成長軌道に乗せることは生半可の事業ではなかったはず。8億人とも言われる農村部を中心とした貧困層を塗炭の苦しみから脱却させることに大きな成果をもたらしたことは世界の歴史上初めてのこと。
 
 100年前、上海で産声を上げた中国共産党ですが、その歩みは平坦なものではありませんでした。わずか20名ほどで生まれた組織を1億人近い党員を擁するまでに成長させたものは、その改革精神であったと思われます。この間、路線を巡る意見の違いや社会的混乱など、紆余曲折があったことは記憶に新しい限りです。

 しかし、「貧しくとも平等な社会」から「先に豊かになった者が後から来る者を助ける社会」を経由し、今や「世界の模範となる独自の社会主義市場経済を誇れる社会」にまで進化したことは特筆に値します。

 アメリカなどからは「覇権主義」とか「軍事的脅威」との批判的な見方も出ていますが、それは中国の近現代史を余りにも無視した見方に過ぎません。日本においても、中国の近代史に対する客観的な理解や「債務の罠」と批判されることもある「一帯一路」事業のプラス面も公正に分析する必要があるはずです。
 
 習近平国家主席の肝いりの「一帯一路」構想は10年目を迎え、その記念イベントにはプーチン大統領も参加し、演説の中で、習近平国家主席の指導力を褒め讃えていました。ロシアは「一帯一路」計画には正式には参加していませんが、ロシアの北極圏航路と一体化する検討を始めたいと具体的で前向きな姿勢を見せたものです。

 スリランカなど一部の途上国が「債務の罠」に陥っているとの否定的な見方もありますが、多くの途上国や新興国にとっては鉄道や高速道路、港湾などのインフラ整備は自力では難しく、中国の経済的なパワーに頼っている面は無視できません。

 このところロシアと中国の関係強化が目立っています。両国とも「アメリカ主導の世界」から拡大BRICSが中心となった「新たな世界秩序」を目指すという意気込みを露にするようになってきました。中でも中国が働きかけ、「価値の裏付けのないドル」から「金(ゴールド)の裏付けのあるデジタル通貨」への移行を推進するとの提案は注目に値するもの。現在、世界の中央銀行でも個人投資家の間でも、最も大量に金を保有しているのは中国に他なりません。

 オリンピックでは全ての競技参加者は金メダルを得ようと必死の戦いを演じます。経済の世界でも金の価値は高まる一方です。BRICS加盟国だけで過去10年間に3000トンの金を確保しました。中国がナンバー1ですが、多くの国々がその後を追っています。あまり知られていませんが、ロシアは金の輸出大国でもあり、最大の輸出先は中国なのです。

 欧米諸国がロシアを敵視したとしても、中国と連携し、金の裏付けを背景に「脱ドル化」を進めることで、天下を取れると胸算用しているのがプーチン大統領と思われます。日本はこうした中国の一帯一路計画の舞台裏で静かに進行する「脱欧米化」の動きに、もっと情報収集のアンテナを向ける必要があるはずです。