いわゆる「台湾有事」はいつでもあり得る話です。中国がそう思った瞬間に起きると思われます。その瞬間を決めるのは習近平主席に他なりません。その際の判断材料は2つ。一つは台湾の独立で、もう一つはアメリカによる台湾の国家承認です。

 最近、小生の知人が台湾を訪問し、来年1月の総統選挙の候補者3人並びに選挙参謀らと面談しました。その報告によれば、皆、本音では台湾独立からは距離を置いていたようです。要は、誰も中国との戦争を望んでいないことが確認できたといいます。

 台湾の大臣経験者曰く「台湾は立場が弱いのでアメリカにも日本にもノーと言えない。台湾有事をとやかく言うのではなく、戦争が起きない方法を議論してほしい。台湾有事ばかりが話題となり、日本からも台湾への投資が止まり、困っている」。

 もし有事となった場合、米軍が介入するには時間がかかるはず。米軍が台湾有事に際し、軍事的に介入するにはどのくらいの時間が必要でしょうか。数週間から数か月の時間がかかるとみられます。

 日本にとっての難題もあります。それはアメリカから「米軍の体制が整うまで、日本の自衛隊が支えてくれ」という要請があること。日本の自衛隊が出動するには、米軍の存在と要請が前提となります。しかも、日本の領土が直接攻撃されない限りは前面に出ることは難しい話。ところが、こうした課題に対して日米間の協議や合意はできていません。

 思い起こせば、2023年夏、自民党の麻生太郎副総裁が台北を訪問しました。その間、「台湾有事」を念頭に、「日本、台湾、アメリカをはじめとした有志国には戦う覚悟が求められている」と強調。蔡英文総統とも会談し、与野党の候補者とも面談を重ねました。

 麻生氏は軍事的圧力を強める中国の動きに懸念を表明した上で、「台湾有事の可能性が高まっている。日本は台湾防衛のために防衛力を行使する用意がある。また、そうした明確な意思を相手に伝えることが抑止力になる」と述べ、「日本のこうした毅然とした態度は、岸田政権以降も変わらない」と、「ポスト岸田」を想定したような踏み込んだ発言を繰り出しました。

 対する蔡総統は「日本は台湾にとって大切な国際的なパートナーだ」と応じ、台湾海峡の平和と安定に向けて協力することを確認。外交関係のない台湾と日本の間では議員外交が欠かせないと応じました。

 とはいえ、最大の課題は日本政府も国民も台湾防衛に関しては具体策を持たず、他人事的な対応に終始していることです。麻生氏は「戦う覚悟」を大上段に掲げていますが、現実はそう簡単には行きそうにありません。日本でも台湾でも若い世代ほど、「台湾有事って何?」といった無関心が広がっています。

 そもそも、このところ台湾有事に関するシミュレーションはアメリカでも日本でも頻繁に実施されていますが、防衛費獲得のための絵空事が多いのが実態です。特に、アメリカのシンクタンクや専門家は「中国による台湾侵攻は2027年ではなく、2024年にもあり得る」と想定し、様々な図上訓練を繰り返しています。

 しかし、軍事的に中国はアメリカを凌駕しつつあり、現時点でもアメリカは太刀打ちできないという厳しい現実は無視できません。日本でもアメリカでもシミュレーションによっては、「中国軍を押し返すことができる」との結論が出されていますが、手前勝手な推論が多いのが玉に瑕です。

 なぜなら、アメリカの場合は、ウクライナやイスラエルへの武器供与の影響で、台湾有事に際しては十分な対応ができない可能性が高く、武器弾薬等の在庫が少なくなっており、動員できる兵力も限られているという差し迫った現実問題に直面しているからです。

 要は、台湾有事でも朝鮮半島有事でも現状の日米同盟体制では防衛できないと言わざるを得ません。その上、たとえ日米や国際社会が対処しようとしても、「一つの中国」論に代表されるように、「台湾問題は中国の国内問題」との見方も根強いため、介入のハードルは高いままです。

 日本は万が一、台湾が中国に組み込まれた場合の経済安全保障上の問題を認識していないのが最大の欠点です。台湾海峡を通るシーレーンが封鎖される場合には、海外からのエネルギーや食糧への依存度の高い日本は国家存亡の危機に陥ることは火を見るよりも明らかのはず。

 これまで用意周到な準備を重ねる中国の動きに関し、アメリカは認識していたにも係わらず、日本の防衛機密保持の脆弱性を懸念し、日本との情報共有には至りませんでした。その状況は今も変わりません。台湾有事が起きるかどうかは別にして、朝鮮半島有事の可能性も否定できないわけですから、何を差し置いても、先ずは日米間の相互信頼の強化が求められます。

 と同時に、故安倍首相が腐心したように、ロシア、中国、北朝鮮との水面下の交渉チャンネル作りにも取り組む必要があるはずです。台湾有事を起こさない対策が最優先されねばなりません。