今日、世界は環境、食糧、エネルギー危機に加え、相次ぐ新種の感染症の出現や通商摩擦、テロ、戦争の危険性など、「人類と地球の終末」を予感させるような状況です。日本もそうですが、アメリカやヨーロッパ諸国は自国内の問題の解決もままならず、世界的な難題に有効な手立てを講じることができていません。今月、広島で開催されたG7サミットで掲げられた「核兵器のない世界」というスローガンも「絵に描いた餅」のようでした。

 一方、15億人に達する世界最大の市場を有する中国は、「共同富裕」と称する「中国式現代化」を通じて巨大なマーケットを開放することで南北間格差を解消することにつなげようとする狙いを秘めているようです。

 日本ではアメリカの影響もあり、中国に対しては否定的な見方も強く、中国を脅威の源泉と見なす動きが顕在化しています。しかし、日中間には大きな可能性が眠っていることにも注目すべきでしょう。例えば、習近平主席は「豊かな自然は金銀同様の価値がある」と述べています。本来、日本人の価値観は自然を大切にし、自然と共に生きるというものでした。四季折々の自然の変化を愛(め)で、自然の恵みを感謝して暮らしていました。大地の恵みや海からの贈り物を生きる糧としてきたはず。

 こうした価値観を共有する商品やサービスを日中共同で開発し、世界の市場に投入する時ではないかと思います。両国は高齢化社会に突入しており、健康、医療、福祉、介護の分野においては特に大きなビジネスチャンスが眠っていることは間違いありません。

 その観点から見れば、中国政府の推進する高いレベルの対外開放や外資参入のネガティブリストの合理的削減は大いに歓迎されます。とはいえ、米中間では通商摩擦が激化し、アメリカは中国に対する半導体輸出や関連する人材の中国での就労を禁止するような制裁に踏み込む有様です。
 
 これでは自由で開かれた貿易は阻害されてしまいます。日本貿易振興機構(JETRO)では「中国式現代化」に大いに注目し、「革新的なブレークスルー」になり得るとの見方を紹介しています。世界の140の国にとってもそうですが、日本にとっても中国は最大の通商貿易相手国に他なりません。

 しかし、アメリカからの要請や圧力もあり、近年、日本政府も企業も対中投資や市場参入には慎重になっています。知的財産権の保護の問題などもありますが、中国が新たに掲げる「現代化」政策の実現にとって、日本の持つ技術や経験が役立つ可能性は極めて高いものがあるのは事実です。海洋資源開発に関連する環境保全やカーボンニュートラル目標の達成に向けてのクリーンな技術、はたまた食の安全管理に関連する水質浄化や土壌改良などの分野でも日中の協力は世界にとって朗報になるはず。

 コロナ禍や政治的対立がありながらも、アメリカと中国の貿易量は拡大を続けています。米中間の貿易規模は毎年数百億ドル単位で伸びており、2022年には6906億ドルに達しています。これは対前年比で342億ドルの増加です。要は、米中の相互依存は高まり続けているという現実があります。これはヨーロッパも同様です。

 日本のみが対中貿易量が減少するという異常な状況が続いているわけで、発想の転換が求められる時期ではないでしょうか。いわゆる「中国脅威論」に右往左往する必要はなく、米中関係の実態を冷静に見極めることが日本には求められていると言っても過言ではありません。

 言うまでもなく、日中間には様々な課題と可能性があります。現在、両国の関係者の間で検討が進んでいるのは環境問題やコロナ対策を含む災害対応の分野における日中協力の促進とアセアンを中心とするアジア全体を包括する資源エネルギー開発構想を日中のイニシアティブで提唱するというものです。

 気候変動問題は中国にとっても日本にとっても深刻な影響をもたらしています。近年、地球環境が限界に達しつつあり、野生動植物や海洋生物の激減が問題となってきました。そのため、パンデミックや環境問題対応で日中が共同戦線を張り、アジアをリードする可能性を見出そうとするのが「気候安全保障政策」です。中国が目指す「製造強国、品質強国」の建設に関しては、日中は競争関係にも協力関係にも入る余地があります。であればこそ、両国の補完システムを構築することが最善の選択肢となるはずです。

 日本の経済界が注目しているのは「現代化」の中で言及されている「全人民の共同富裕」という政策です。国民の間に生活の安定と公平性を確保することは、どこの世界でも理想とされるところのはず。日本では過去30年間、初任給が増えず、大企業が利益を内部留保に回すことで富の偏在が深刻化してきました。GDPの伸びも抑えられ、国民の消費生活は物価高により活力を欠いたままです。

 それと比べれば、中国の経済成長はまだまだ“伸びしろ”が見られます。実は、中国の大富豪の数は世界を圧倒しており、アメリカ人を上回っているほどです。今やアメリカの誇るGEもGMも中国企業が買収しています。中国経済の飛躍ぶりを象徴している事例です。「中国式現代化」によって、この動きは更に加速するものと思われます。
 
 岸田総理はカンボジアで開かれたアセアン首脳会議やインドネシアでのG20 サミットの機会に習近平総書記との直接対話を実現。しかし、国内の対中強硬派の動きやアメリカのバイデン政権の影響もあり、会談は成し遂げたものの、具体的な関係改善に至る進展は見られませんでした。日本独自のアジア外交なくしてアメリカから真に独立することはできないでしょう。その観点からも、日本とすれば中国はもとより、近隣のアジア諸国との友好関係、相互依存体制を強化することが不可欠です。

 人間関係と同様ですが、隣国関係においても、お互いに国民同士が相手国の人や文化を知ることが欠かせません。日本でも中国でも信頼できる友人を相手国に持つ人は限られています。長い歴史と文化、経済の交流を重ねてきた日中両国にとって、残念なことではあります。

 思い起こせば、周恩来首相は19歳にして日本に留学し、日本人や日本文化に直接触れる体験を重ねていました。そうした経験が50年前の日中国交正常化に役立ったことは議論の余地がありません。やはり若い時から、お互いの違いや共通点を理解する機会を積み重ねることが大事だと思います。

 中国がこれからどのような発展を遂げていくのか、政府や企業に限らず、多くの日本人にとっても大きな関心事項です。しかし、身近なところに中国人の友人や知人のいない日本人はメディアが流す「中国脅威論」に乗せられてしまい、「中国は怖い」と勝手に思い込んでいるフシがあります。こうした状況を乗り越えるには、自分で考え、自分で行動するという自己判断力を高めることが何より大切です。