現在進行中のウクライナ戦争は終わりが見えません。国連のグテレス事務総長がプーチン大統領とゼレンスキー大統領と個別会談を行い、和平交渉への仲介役を果たそうと試みましたが、一向に進展はありませんでした。
このままでは、核使用もありうる第3次世界大戦に発展する恐れも現実味を帯びてきています。というのは、NATOの支援を受けているウクライナがロシアと軍事的な対立を続けているように見えますが、実態はアメリカ軍がウクライナ戦線で直接的な関与を強めているからです。
最大の激戦地となっているマリウポリではアメリカ軍の将校の乗ったヘリコプターが撃墜され、搭乗していた米軍幹部らはロシア軍によって連れ去られたとの情報が飛び交っています。アメリカ政府は「わが国の正規軍がウクライナに直接関与することはない」と繰り返し述べてきたため、捕虜になったと思われる将軍の所在を明らかにはしていません。
現地で取材を続けるフランス人ジャーナリストによれば、アメリカ軍の提供する「スイッチブレード」と呼ばれる自爆ドローンによるロシア軍への攻撃を現地で指揮監督しているのはアメリカ軍人に他ならないとのこと。
要は、武器や情報の提供だけではなく、アメリカはウクライナにおいて直接ロシア軍との戦いを演じているのです。しかも、こうした戦いは国防総省から委託を受けたランド研究所が2019年に行ったアメリカ主導の「ロシアNATO戦争シミュレーション」のシナリオとそっくり同じ展開を見せています。
このシミュレーションでは、最終的に「核戦争」にまで対立が激化し、ロシア軍の勝利に終わることになったようです。バイデン政権とすれば、そうならないようにするため、ロシアへの経済制裁の強化と同時進行でウクライナ軍への最新兵器の提供と現地で作戦の指揮を執らせるためアメリカの将校を派遣しているわけです。
また、ウクライナからの要請を受け、アメリカはスロバニア軍が保有する旧ソ連製のミグ29戦闘機を提供するお膳立てもしました。こうした情勢を視野に入れれば、ウクライナ戦争は長期化が避けられないでしょう。民間人を含む多くの犠牲がこれまで以上に発生する可能性が否定できません。
加えて、ヨーロッパでも最大規模を誇ってきたウクライナの農業生産は大きな打撃を被ってしまいました。ロシアと共に世界有数の小麦やトウモロコシの産地であったウクライナですが、港湾が閉鎖され、輸出もできなくなり、戦火の影響で作付けもできません。その結果、世界的に穀物価格は13%を超える値上がりを続けています。世界銀行によれば、「インフレの影響もあり、食糧価格は37%まで急騰する可能性がある。途上国の60%は債務不履行に陥りかねない」とのこと。
実は、ウクライナ産の穀物はヨーロッパ人の胃袋を満たしていたばかりではなく、中国人の食卓にとっても欠かせないものでした。何しろウクライナにとって中国は最大の貿易相手国でしたから。ウクライナには中国から多くの留学生やITの専門家が来ていました。
緊急事態に直面し、中国はアメリカからの食糧緊急輸入に舵を切りました。2021年5月以降、中国は過去最大規模でアメリカ産のトウモロコシの輸入を始め、今日に至っています。アメリカ農務省のデータを見れば、中国は100万トンを超えるトウモロコシを買い入れたことが確認できます。
アメリカ政府の分析では「中国はかつてない勢いで食糧の備蓄に取り組んでいる」とのこと。中国による爆買いの影響もあり、トウモロコシの価格は2012年以降、最高値を更新中です。もちろん中国が買い占めに走っているのはトウモロコシに限りません。小麦や大豆も同様です。
今後もウクライナ戦争が長引けば、中国による食料の買い占めはますます激化し、世界的な食糧争奪戦争に発展する恐れも出てくるでしょう。ウクライナやロシアからの肥料の出荷も滞っています。そのため、中国では農業生産者が苦境に陥っている模様です。
中国の農業・地域発展担当大臣によれば「中国の小麦生産は過去最悪の事態に直面している」とのこと。今秋、5年に1度の共産党大会を控える習近平体制にとって、「ゼロコロナ」と食糧確保は最重点課題となっています。こうした喫緊の課題を克服しなければ、習近平国家主席の3期目にも暗雲が立ち込めかねません。
更に深刻な問題も発生してきました。何かと言えば、アメリカの穀倉地帯における温暖化と悪天候による生産減少です。テキサス、オクラホマ、カンザス、モンタナといった農業州において熱波と強風の影響で小麦、トウモロコシ、大豆の生産が大打撃を受けています。
これではアメリカ国内においても食糧不足の嵐が巻き起こる危険性すらあるわけで、食糧輸入を加速させてきた中国のみならず日本にとってもかつてない深刻な事態が出現することになりそうです。「備えあれば患いなし」。今こそ食糧の備蓄を行うと共に、家庭菜園などできる範囲で食糧の自給体制を組む努力が欠かせないでしょう。