「目指せ!海洋資源の共同開発:“海からの贈り物”に感謝!」

日本は国土面積の大きさで言えば、世界第66位の38万平方キロメートルに過ぎない。しかし、排他的経済水域という視点で見れば、日本の海域面積は国土の約12倍に当たる405万平方キロメートルにも達する。これは世界第6位の「海洋大国」であることを意味している。そのため、日本には、長い歴史を通じて養ってきた「海と共に生きる」知恵と高い技術力という強みがある。日本人独自の経験と未来を切り開く技術的なアイディアを組み合わせ、人類すべてに対し、「海からの贈り物」を提供することが持続的な経済社会発展の基本となるに違いない。

なぜなら、「海と太陽の恵み」から、人類は自らの生存にとって欠かせないあらゆるものを生み出すことができるからだ。であるならば、我々はこれまで培ってきた自然界との調和を重視する生き様、そしていわゆる「物質循環」に価値を見出すライフスタイルを、これからの時代のビジネスモデルとなるように進化させねばならない。次世代に資源をバトンタッチするためにも、無限に近いエネルギーを秘めた海洋と太陽の力を活用しない手はない。再生可能エネルギーとしては、太陽光や風力を源とする発電は急速に利用が進んでいるが、海洋資源の活用はこれからだ。同じ課題に中国も世界も直面している。

では、具体的な「海からの贈り物」として、注目すべき価値の源泉とは何であろうか。一般的には、海洋資源として認知度が高いのは石油、天然ガス、メタンハイドレード等である。しかし、これらの海底資源の開発には莫大な資金と国際的な争奪戦という高いハードルが横たわっている。その点、今後の循環型エネルギー社会の構築を模索する上で極めて有望と思われる海洋資源の一つは“藻類”である。

というのも、地球上に存在するあらゆる創生物は藻類が行う光合成によって二酸化炭素を資源として固定化することで得られるからだ。言い換えれば、こうした過程で誕生する資源は「永遠に枯れることのない資源」に他ならない。その意味では、物質循環の象徴的な存在と言えるだろう。現在、各国が藻類を原料としたバイオ燃料等、エネルギー資源、あるいはバイオケミカル資源としての活用方法を模索している。と同時に、藻類に凝縮されたレアアースの回収や医薬品への活用など高付加価値資源化の可能性も無視できない。また、藻類そのものを食糧、飼料、肥料として活用する方法も生まれつつある。

更に、最近注目を集めているのは、フコイダンである。これはコンブ、ワカメ、モズクなどの粘質物に多く含まれる食物繊維で、1996年の日本ガン学会で制がん作用が報告されたため、健康食品として一躍脚光を浴びるようになった。いまだ、科学的、臨床的なデータは限られているが、この「海からの恵み」フコイダンには「肝機能を改善する」「血圧の上昇を抑える」「抗菌作用がある」「アレルギー体質を改善できる」「コレステロールを下げる」などの効果も期待が高いところである。

要は、藻類一つをとっても実に多様な可能性を秘めた創生物であるということだ。このような藻類パワーを活かした新産業の育成は単にエネルギー産業や資源の有効活用にとどまらず、日本が誇る高い技術力の蓄積を持つ農業や水産業、そして医療の分野と融合させることで、これまでにない海洋産業として大きな雇用を生み出す源泉となる。

世界がパンデミックの恐怖に飲み込まれようとしている中、日本の持つ海洋資源研究のノウハウを駆使することで、中国の揚子江の汚染対策、そして海産物の安全確保につなげる道が開かれる。日中の共同研究テーマには持ってこいだ。海南島では新たな国際健康医療特区が準備中だが、そうした特区を舞台にしたニュービジネスにも最適ではなかろうか。

更に言えば、わが国は従来から養殖漁業が盛んであり、魚介類や海苔、昆布、わかめ等の藻類の養殖、加工技術は世界のトップレベルを保持している。こうした高い養殖、加工技術を擁する国内地域と海洋資源創生のためのプラットホーム構築を有機的に結び付けることにより、農林水産業の再生や国際的な水産加工業を起こすことも可能となる。

こうした海洋資源創生エネルギーと高付加価値海洋資源を組み合わせたスマートコミュニティー構想こそが、陸と海、そして空が一体化する新しい「海洋国家・日本」に相応しい産業構造のあり方に発展するに違いない。今こそ日本社会の閉そく感を打ち破り、洋々たる成長産業の大海に船出するために、海洋大国の潜在資源に命を吹き込む時である。

我々人類が誕生したといわれる海。青い地球と言われる所以の海洋。東シナ海や南シナ海が緊張と対立の海になりつつあることを思えば、今こそ「海からの恵み」に感謝しつつ、その資源力の活用に大いなる知恵を働かせ、国際的な共同開発の成功事例にしようではないか。