「日中両国が慈悲の心で困難を乗り越える好機到来!」

浜田和幸

 新型コロナウィルス(COVID-19)が猛威を振るっています。2019年末、「中国のシカゴ」と呼ばれる武漢で発生したとされるウィルスは中国のみならず、アジアから世界に広がり、感染者や死者の数が収まりません。
自然界から発生したものなのか、人為的な手が加えられたものなのか、原因の特定もままならないため、憶測や風説が飛び交い、様々な分野に影響が出ています。人気グループ「嵐」の北京でのコンサートも中止となりました。文化やスポーツ関連の行事も延期や断念の決定が相次いでいます。このままでは、2020年夏の東京オリンピック・パラリンピックの開催も危ぶまれる雲行きです。
世界保健機構(WHO)のロンギニ顧問によれば「全世界で50億人が感染する恐れがある」とのこと。これほど感染力の強い、そして潜伏期間の長いコロナウィルスは前代未聞と言います。中国政府は感染の拡大を抑えるために非常事態宣言を発し、「1949年の中華人民共和国建国以来、最大の危機」との認識の下、あらゆる防御手段を講じていることは間違いありません。しかし、今や中国だけで対応できる限度を超えているようです。
であるならば、世界各国が協力し、官民挙げて、この人類の共通の敵に対処する必要があるのではないでしょうか。病原菌の特定や治療薬の開発も必要ですが、日本と中国の間で特に求められるのは何よりも「慈悲の心」と思われます。人の悲しみを自分の悲しみと感じ、人の喜びを自分の喜びと感じる心のことです。幸い、日中両国には「漢字」という共通のコミュニケーション・ツールが存在します。
日本から中国に送られた救援物資を入れた段ボールには「山川異域、風月同天」(国は違っても、眺める月は同じ)といった漢詩がさりげなく書き添えられていました。要は、今いる場所は異なっても、同じ世界を生きている同胞として、困難を乗り越えるために、力を合わせよう、心を通わせよう、というメッセージに他なりません。
この控えめですが、確かなメッセージはSNSを通じて瞬時に拡散し、それまでくすぶっていた日中間のわだかまりが一挙に氷解したと言われるほどでした。まさに「同文同種」のなせる業(わざ)と言っても過言ではありません。
かつて元寇の役で多くの日本や中国の兵士が命を失ったものです。しかし、時の将軍、北条時宗は「亡くなった兵士に国の違いはない」との思いから、日中の区別なく、戦没者を弔うために円覚寺を建立しました。すなわち、「怨親平等」の理念の発露です。一事が万事。日中の歴史を紐解けば、未来を切り開く“道しるべ”となる先例に事欠きません。
目前の中国が直面する未曾有の難局に対し、最も心を通わせることのできる「漢字」という共通の文化を持つのが日本の強みなのです。新型コロナウィルスという強敵を倒すには日中が先導し、世界がスクラムを組み、立ち向かう団結心が欠かせません。最も厳しい状況にある中国人に漢字を通じて「華厳の心と勇気」を届けようではありませんか。国境を越えて助け合う、慈悲の心を持つすべての同胞の出番到来と言えるでしょう。