国家間の交流と相互理解の場を広げることは、世界の平和と発展にとって欠かせない課題だと思います。人類の長い歴史の中で、各民族は独自の文化を形成してきました。そうした中で、これからの国際社会の在り方を考える時に、最も重要な要素はお互いの歴史や文化を理解し、尊重し合いながら、発想の共通点を見出し、共存共栄に向けての共同歩調を目指すことではないでしょうか。

その意味で、今月、中国とギリシャがお互いの文化を検証し合い、そこから世界に通じる未来ビジョンを生み出そうと検証センターの設立に至ったことは歴史的にも素晴らしい第一歩になるものと大いに期待しています。

中国には5000年を超える「医食同源」という食文化の蓄積があります。漢方には人間本来の自然治癒力や生命力を高める効果が立証されているわけです。また、ギリシャにはイカリア島が「死ぬことを忘れた島」と呼ばれるように、ユネスコの世界無形文化遺産の登録されている「地中海式食事法」が幸いし、3人に1人は90歳以上の健康長寿文化を実現しています。

対照的に、アメリカでは85歳以上の50%は認知症と診断されていますが、イカリア島ではその比率は10%未満です。その意味でも、中国とギリシャが食文化の持つ健康増進機能をより深く研究し、日常生活に活かす道筋を世界に示すことになれば、コロナ禍における「より良い生き方」を実現する上でも極めて有意義なものと思われます。

新たな検証センターの設立に際し、誰もが願う健康長寿への具体的な提言が得られることを期待します。と同時に、こうした中国、ギリシャ両国の試みが日本やアメリカなど世界を巻き込んだ国際的なネットワークへ発展することも願うものです。

その意味で、日本で健康長寿に関する話題を独り占めしているのが『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』の著者である石井哲代さんです。何しろ、御年102歳。広島県尾道市で夫に先立たれてから20年以上も一人暮らしを続けてきています。1920年に広島県府中市で生まれ、4人兄弟の長女です。

1940年、20歳の時に小学校の教員になりました。当時は、既に日中戦争の真っ最中。彼女曰く「あの時代は、男は兵隊にとられておったりして、女は働きに出て子どもの面倒が見られなかった。だから、私は母親代わり。学校の子どもたちを並べて川の水で髪を洗って、しらみを取ってあげていた。今のウクライナの戦争なんて悲しくて見ておれません」。

終戦後、26歳の時、教員仲間だった男性と結婚。夫の実家が農家だったため、教員を続けながら、農作業も手伝った。56歳で退職し、それ以降は夫と二人で畑を耕しながら過ごしてきたといいます。しかし、夫は2003年、83歳で他界。それ以来、独居生活に。

長生きの秘訣を聞かれると「この年だけど、補聴器もいらん。遠くの杉の木まで見えて眼もええです。健康長寿の秘訣?まずは体を動かすことじゃろうか」と、答えています。哲代さんの毎日はしっかり活動することから始まります。起床は毎朝6時半。毎日起きるとまず掛布団を畳んで押し入れに入れます。「布団の上げ下げはええ運動です」とは彼女の弁。

加えて、趣味ともいえる習慣が「柔軟体操」とのこと。「思いついた時にやる。座って両脚を伸ばして前屈をする」と、にこやかに語ってくれます。実際に、前屈すると頭が脚に付くほど体が柔らかい。他にも座ったまま開脚したり、立って前屈したりと、自分の好きな態勢で柔軟体操をしています。「体を伸ばすと気持ちええ」とのこと。

確かに、体の柔らかさは高齢者にとって極めて重要と思われます。しなやかな筋肉を保つことで、歩く機能の衰えを防ぎ、転倒や骨折から体を守ることになるわけです。寝たきり防止にも効果があるに違いありません。

この4月には103歳を迎える「広島のおばあちゃん」です。「脳トレ」をやっているのかと尋ねると「頭も使わんとさびるから。新聞も本も隅々まで細かく読みます。手元に辞書を置いて、知らない言葉を調べるようにしている。先生をやっていた頃より勉強しとるね」と元気な答えが返ってきます。

そして、手紙や年賀状は必ず自筆する。「書けるうちは自分で書いたほうがええ。去年は年賀状を30枚くらい書いたかな。言いたいことが伝わるから書いた方がええんです」。漢字の書き取りや日記も欠かさないそうです。1冊で3年分の日記が書ける「3年日記」を続けています。会った人や畑のことを夕食の後に書きます。何でも手を使って書くのが脳の活性化に役立っているようです。

家の後始末や自分の葬儀の段取りなどを記したエンディングノートはもう5冊ほど書き留めているといいます。「ノートに葬儀のことは書き残してあるから、それまで精一杯生きます。心はお月さんのようなもん。満月のように輝きたいけど、欠ける日もある。弱いところを見せて、いろんな人に助けてもろうて、いくつになっても満月にしていこうと思うとります」。

笑顔を絶やさず、機嫌よく生きる。そして「くたびれることはしすぎない」。これこそ「広島のおばあちゃん」の健康長寿の秘訣です。大いに学びたいと思います。