世界が注視する中、ウクライナ情勢は厳しい事態が続いています。ロシアとウクライナの対立はアメリカを巻き込む米ロの代理戦争のような状況に陥ってしまいました。国連やフランス、トルコなどによる和平へ向けての仲介交渉も思うような成果を上げていません。このままでは、人的、経済的な被害が拡大するばかりでしょう。
 
 世界各地で繰り返される紛争や戦争、そして環境破壊によって、食糧生産にも陰りが見えてきました。これこそ世界の環境学者らが懸念する食糧危機の始まりです。食糧争奪戦争を引き起こす可能性が高まります。ロシア、ウクライナ両国でこれまで世界の小麦需要の30%を賄ってきていました。それが港湾施設の破壊や経済制裁の影響もあり、輸出がストップしています。

 ロシア、ウクライナに加え、更に別の原因でも世界の農業大国の多くが危機的な状況に追い込まれているのです。アメリカの場合はエルニーニョによる干ばつが引き金となり、今年4月までに1402か所で山火事が発生しています。カリフォルニア州では水不足で農業にも市民生活にも悪影響が出る有様です。

 インドでは熱波のせいで、北部一帯で気温が45度まで急上昇を遂げています。モディ首相曰く「かつてない危機的状況だ」。中国も豪州も洪水に襲われ、農作物の収穫が激減する事態に直面。特に中国の場合は深刻で、農業担当大臣曰く「穀物生産は過去最悪で、輸入確保に全力で取り組んでいる」。

 実は15億の人口を抱える中国は大豆の輸入量に関しては世界1なのです。他にも小麦や豚肉なども大量に輸入してきました。「コロナゼロ対策」もそうですが、この食糧危機を乗り越えなければ、秋に共産党大会を控える習近平政権は難しい局面を迎えることになるかも知れません。

 そんな食糧危機が迫りくる中、国際的に関心が高まってきているのが「昆虫食」に他なりません。国連食糧農業機関(FAO)も昆虫食を推奨する報告書をまとめたほどです。それによれば「2050年に世界人口は90億人に達すると予測される中、温暖化による異常気象が顕在化しており、温室効果ガスの発生を抑え、地球の負荷の少ない食料としての昆虫食が優れている」とのこと。

 確かに、昆虫全般に当てはまるのですが、タンパク質を多く含む種類が多いのです。イナゴもコオロギも高タンパク質低脂肪が特徴となっています。それ以外にも、昆虫にはカルシウム、マグネシウム、リン、銅、亜鉛などミネラル分を豊富に含むものがいくつも存在しているのです。また、昆虫はタンパク質に加えて、身体に良いとされる不飽和脂肪酸を含むものが多く見られます。

 FAOの報告書によれば、「昆虫食こそ今後の食料としては最適」とのこと。なぜなら、第一に、飼料変換効率が抜群であるからです。例えば、牛肉を1キログラム増やそうと思えば、10キログラムの餌が必要人なります。ところが、コオロギの場合は2キロの餌で十分です。しかも、コオロギの可食部率は80%と高く、変換効率で比較すれば牛肉の12倍にもなります。

 第二に、メタンや二酸化炭素など温室効果ガスやアンモニアの排出量が少ないため、地球温暖化に対する抑制効果が期待できるわけです。メタンは牛など草食動物の腸内発酵によるげっぷに多く含まれています。

 第三に、環境汚染の低減や土地や水の節約にも役立つという点が指摘されています。なぜなら、人間の廃棄物で昆虫を育てることが可能であり、廃棄される生ごみを半減させることにもつながるからです。しかも、家畜と比べはるかに狭い土地と少量の水で飼育できる点も強みになります。

 実は、地球は「虫の惑星」でもあります。極地を除けば、地球上にあまねく存在しているからです。日本だけでも10万種類を超える昆虫が確認されています。あのビル・ゲイツ氏やジェフ・ベゾス氏、そしてハリウッドスターのデカプリオ氏らも代替肉や昆虫食に関心を寄せ、投資に熱心と言われているほどです。

 しかし、最近、その昆虫類にも絶滅の恐れが出てきたとの指摘が相次いでいます。というのも、熱帯雨林が毎日8万エーカーも消滅中のため、そこに生存してきた昆虫類の75%から90%が絶滅の危機に瀕しているというのです。

 「人類の生き残りにとって切り札になる」と期待の高まってきた「昆虫食」ですが、決して楽観できそうにありません。気象学の専門家によれば、毎日200種類の植物、鳥、動物、魚、両生類、昆虫、爬虫類が絶滅中とのこと。既に2万6000種類は絶滅の危機に瀕している模様です。

 これだけ生物圏(水、地表、大気)の崩壊が続けば、「人類だけが生き残れることはあり得ない」という悲観的な結論に至るのも当然かも知れません。人類滅亡の危機に際して、個人でできることには限界があるでしょう。とはいえ、座して死を待つわけにはいきません。
生き残るには昆虫の飼育を含め自給自足体制の確立が急務です。

 改めて、人間が自然の一部であることに思いを致し、今こそ日本的な「もったいない」の省エネ・ライフスタイルと「医食同源」の中国の食文化の融合を図る時ではないでしょうか。2022年は日中国交正常化50周年でもあり、両国が協力して地球的な食糧やエネルギー問題への解決策を見出す突破口を切り開くチャンスにしようではありませんか。