このところ、新型コロナ・ウイルスのオミクロン株が世界で感染の猛威を振るっています。2022年2月に開催される北京冬季五輪・パラリンピックに際しても、感染対策が最重要課題となってきました。とはいえ、コロナ・ウイルスという目に見えない病原菌に余りにも恐れおののくのは如何なものかと思われます。先ずは、「自分の健康は自分で守る」という強い意思の力や食生活を通じて免疫力を高めることが欠かせないはずです。

 なぜなら、人類の歴史そのものは感染症との戦いといっても過言ではないからです。これまでもペストやHIVなど、多くの感染症が人類に襲い掛かってきました。しかし、人類は様々な工夫を凝らし、こうした病原菌との戦いに打ち勝ってきたものです。もちろん、今日ほど、交通手段が発達し、人やモノの移動が活発化したことはありませんでした。

 その意味では感染のスピードや範囲が広がることは致し方ありません。そこで大事なことは「運命共同体」的な発想ではないでしょうか。新たな病原菌が発生した場合には、速やかに情報を共有し、国際的な対策を講じるという体制を日頃から構築しておく必要があります。

 と同時に、食生活やライフスタイルを含めて、高齢になっても元気で活躍してきた先達や今この瞬間も現役で活躍中の世界の指導者の生きざまから多くの教訓を引き出すことも有意義だと思われます。

 例えば、日本から世界に禅を広めた鈴木大拙は96歳で大往生を遂げました。1966年のことです。金沢の生まれでしたが、渡米し、世界に仏教思想を紹介したことで知られています。言うまでもなく、「無心の心」で96歳をまっとうした仏教学者らしい人生でした。

 また、世界では今、この瞬間も現役で驚異的な活躍を続けている「100歳目前」の政治家や経済人が何人もいます。その代表と言えば、アメリカのキッシンジャー元国務長官でしょう。何と98歳ですが、最近開かれた米中国交正常化50周年を記念するイベントで大演説をこなしています。

 更には、90歳を迎えた「投資の神様」と異名を取るバフェット氏と共に「バークシャー」を率いて驚異的な収益をもたらしているマンガー氏も御年98歳です。今、話題のファイザーやモデルナなどワクチン・メーカーの大株主に他なりません。

 変わり種と言えば、マレーシアのマハティール前首相でしょう。2021年7月10日に96歳の誕生日を盛大に祝っていました。実は、7月12日はマハティール夫人の95歳の誕生日。ご夫婦揃って仲睦まじいご様子で何よりです。

 こうした長寿者に共通しているのは「人生を楽しむ」「信頼できる相手と組む」「やばいと感じたら即、手を引く」といった発想でしょう。それこそが「無心の心」に通ずるものに違いありません。

 とはいえ、現在96歳のマハティール前首相の健康状態が危ぶまれています。通算24年間も最高指導者として君臨してきましたが、2度目の首相の座に就いた時は92歳でした。
世界最高齢の国家指導者としてギネスの記録を書き換えたものです。そんなマハティール氏ですが、去る12月16日、クアラルンプールの国立心臓病センターに緊急入院することになりました。

 これまで何度か心臓病の治療を受けており、バイパス手術も経験しているため、与野党問わず、早期の回復を願う声が多方面から聞かれます。幸い、入院先の病院からは「容体は安定してきたので、間もなく退院できるだろう」との説明がありました。

 本人はブログでの情報発信に力を入れており、最新のコメントは「多くの皆さんにご心配をおかけし、申し訳ありません。一刻も早く元気を回復し、大水害で困っている皆さんの元へ支援に駆け付けたいと願っています」とのこと。96歳にして、国民のことを思う、この情熱には頭が下がります。

 そんな熱血漢のマハティール氏は、同じく12月12日、新著『Capturing Hope: The Struggle Continues for a New Malaysia』(希望を失うな:新生マレーシアのための戦いは続く)を世に問うたばかりでした。この304ページに及ぶ大書を通じて、マハティール氏は2018年に誕生した連立政権では内部対立に足を引っ張られ、思うような改革を実現できなかったことへの反省と悔しさを率直に語っています。

 と同時に同氏は「政治家が国民から選挙で選ばれていない」と訴え、「お金の力で選挙民を買収することが日常茶飯事になっている」とも言います。1981年から2003年まで、彼が最初に首相を務めた時期には政治の腐敗や汚職を一掃することができたのですが、その後は「悲惨な状況が蔓延してしまった」と、実名を挙げて嘆いているのです。

 なお、この本の中では一部の人々が「まさか!」と驚いた意外な発言が記載されていました。それは中国人の箸文化に関する批判的な見方です。マレーシアは多民族国家で、中国系も多数暮らしています。
マハティール氏曰く「マレーシア人は食事の際には指を使って食べます。ところが、中国人は箸を使っています。マレーシアでマレーシア人として暮らすなら、マレーシアの伝統文化に従って指で食べるのが、民族融和の大原則です」。

 この中国人の箸文化への批判にはマレーシア系中国人をはじめ、各方面から反論が殺到してしまいました。ナジブ元首相に至っては自らのFacebookにマハティール氏が中華料理の「ユーシェン」(野菜の上に生の魚を載せたサラダ)を箸で食べている写真をアップし、「二枚舌」を批判する有様です。

 退院した後のマハティール氏が、この「箸騒動」にどう決着をつけるのか、大いに興味をそそられます。
 (2021年12月28日記)