2020年の日本人の平均寿命は女性が87.74歳、男性が81.64歳で、いずれも世界最高を更新したことが、2021年7月30日に公表された厚労省の集計で明らかになった。今回から世界保健機関(WHO)に加盟する主要48か国の比較に切り替えたため、2019年まで男女ともに世界1位だった香港は「地域(特別行政区)」として除外されたため、結果的に日本の女性は世界1位、男性は世界2位となったのである。ちなみに、男性の世界1はスイスであった。

とはいえ、いくら平均寿命が延びたとしても、健康でなければ意味がないだろう。このまま行けば、2100年には、世界人口の4分の1は60歳以上になることが確実視されている。しかし、病気を抱えたり、薬漬けや寝たきりの長寿では寂しい限りであろう。

実際、アルツハイマーや認知症患者も増える一方で、「2025年には65歳以上の5人に1人は認知症」との予測も出されているほどである。そうした背景もあり、今後、世界で最も成長が期待されているのが「健康長寿ビジネス」と言われている。

そんな中、WHOでは、このところ「エイジテック」を推奨し始めた。各国政府に対して、健康医療への投資、社会インフラ、高齢者向けの住宅や介護サービスの拡充を求める提言を相次いで公表している。当面、新型コロナウィルス対応も欠かせないが、長期的に見れば、人々の生命力や免疫力を高めるためにも、「エイジテック」と呼ばれる、「長寿と先端技術の融合」を目指そうという発想に他ならない。

そんな中、最近注目を集めているのが、ドミトリー・カミンスキー氏である。同氏は長寿ビジネスの旗振り役の起業家で、モルドバの出身。英国で投資ファンドを数多く起業しているが、その多くは長寿関連だ。

彼に言わせると、「大きく延命できる技術は既にある」「寿命は最低でも50年増やす」「自分は軽く123歳までは行ける」「過去最高齢記録は122歳まで生きたフランス人女性ジャンヌ・カルマンだったが、その上を行った人には100万ドルをプレゼントする」。

ちなみに、カルマンさんは1997年に死亡したが、100歳まで自転車を乗り回し、110歳まで自活していた。また、117歳までタバコを愛し、チョコレートも大好きで、何と赤ワインは死ぬまで欠かさなかったという。

カミンスキー氏の目標は「180歳超え」。多くの投資ファンドを運営しているが、「5年以内により精密な未来人体延命ビジネスを立ち上げる」と豪語する。。現時点の技術で「123歳は確実だ」というのが、彼の口癖だ。

彼はメディア向けに未来の延命ビジネスを積極的に語るのみならず、自ら「グローバル・ロンジェビティ・コンソーシアム」と銘打った組織を立ち上げ、長寿ビジネスへの投資を加速させている。このコンソーシアムの一環として「エイジング分析エージェンシー」なる会社も起業。この会社を通じて、シンガポール政府が進める長寿へのプロアクティブ政策を後押しまでしている。

というのも、2015年からシンガポールでは「40歳からのサクセスフル・エイジングのアクションプラン」を導入。具体的には「ナショナル・シルバー・アカデミー」や「シルバー・ジェネレーション・アンバサダー」制度を発足させ、在宅介護や家庭訪問でヘルスサービスの質的向上を加速させ始めたからである。

一方、「アマゾン」の創業社長の座を降りたばかりだが、世界1の大富豪の座を維持しているジェフ・ベゾス氏も「ユニティ・バイオロジー」という企業の持つ老化細胞を除去する技術の実用化を支援している。これにはシティバンク銀行等の国際的な金融機関も積極な投資を惜しまないようだ。シティバンクの報告書によれば、「現在のアンチエイジングビジネスは世界全体で2000億ドル市場を形成している。ただ、これには医学療法分野は含まれていない。今後、医療ビジネスが広がれば、この市場は一気に拡大するだろう」。

例えば、骨粗鬆症の治療に対する取り組みも加速しており、2023年までに膝の細胞を活性化することで、若返りビジネスにもこれまでにない追い風が吹くものと期待が高まっている。

同様に、普段は眠っているサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)を活性化させることで健康長寿を達成する研究にも拍車がかかっている。カロリー制限や運動で活性化することも可能であるが、赤ワインに含まれるポリフェノールの一種である「レスベラトロール」でも活性化できるとの医学的研究成果も明らかになってきた。病気予防と若返りが同時に可能になるというわけだ。

延命効果の期待が高まるレスベラトロールは赤ブドウ、ブルーベリー、クランベリーに多いことは確認されている。残念ながら、赤ワインにはそれほど多くない。もし、赤ワインで活性化を達成しようと思えば、1日にボトル100本は飲まねばならない計算になる。これでは延命どころか、早死にしてしまうだろう。

そこで、最近の注目株は「NAD(ミトコンドリアでのエネルギー補完因子、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」である。これはサーチュインの活性化にも効果抜群といわれている。アメリカで研究を続ける今井眞一郎博士が血液中のNADに老化防止効果を発見したのがきっかけといわれる。

また、NADが減少することをNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)が予防するとの研究も明らかになってきた。心臓血管の強化はもちろん、NMNには様々な延命上の有効性が今井博士によって立証されている。特に記憶を司る脳の機能が低下するのを押さえる効果がNMNにはあるとされるため、アルツハイマー病の予防にもなるという。筋肉内の血管の強化も期待されるということで、NMNは健康長寿の切り札として注目が集まっている。

いずれにしても、「生き残り(動物との戦い)や長生き(体に良い食物の確保)」は人類の歴史そのものである。これからも、続々と健康長寿を謳ったビジネスは登場してくるだろう。要は、自己責任で何を選ぶか、そうした選択眼が問われる時代に突入していることは間違いない。