日中友好健康協会ブログ⑩「究極のアンチエイジング:寿命1000歳プロジェクト!」

日中友好健康協会名誉会長 浜田和幸

 新型コロナウィルスの感染も気になるが、安心の老後といえば、何よりもカギとなるのは健全な精神と元気な身体だろう。言うまでもなく、健康長寿は世界中の誰もが望むところである。

「先進国の寿命は1日5時間のペースで伸びている」とのこと。このペースでいけば、2045年には平均寿命は100歳を超えるに違いない。そんな中、「サーチュイン遺伝子」が世界的な注目を集めるようになった。

「サーチュイン」は、細菌からヒトに至るまで、ほぼすべての生物の中に宿っており、栄養の変化や環境が及ぼす刺激に対応し、生物の生存を保証するパワーを秘めているようだ。いずれにせよ、新たな生物学上の発見が病理学的にも注目され、肥満や糖尿病の新しい創薬として実用化が期待されているのは頼もしい限りである。

もちろん、これまでも和食のパワーによって日本人は世界でも圧倒的な長寿を実現してきた。そこに更なる新兵器として登場してきたのが、サーチュインである。その背景には、「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」と呼ばれる、人間をはじめ、全ての生き物の体内に存在している天然のタンパク質が人体の老化防止や寿命の制御に重要な役割を担っている可能性が徐々に明らかになってきたことも大きく影響している。

実は、この分野での研究をリードしているのは日本人である。米国ワシントン大学の今井眞一郎教授らによる研究グループが、サーチュイン遺伝子について様々な実験を繰り返し、この遺伝子を活性化させることにより、人間の長寿命化が可能になるとの見通しを明らかにしたからである。その結果、世界中の人々がその実用化に期待を寄せるようになった。当然、各国の医薬品メーカーや食品企業、そして医療機関がこぞって新規参入に邁進している。

世界全体で見れば、このようなアンチエイジングのマーケットは年々膨らむ一方で、今や50兆円規模に達する勢いだ。60歳以上が全体に占める比率も現在は10%程度であるが、2050年までには22%に拡大することが確実視されている。こうした世界的な延命効果を可能としているのは、遺伝子や幹細胞研究をはじめナノテクノロジーを応用した予防医学に他ならない。

そうした新しい医学の可能性に着目しているのは、医療関係機関や創薬メーカーだけではない。グーグルは2012年に未来研究の第一人者で、筆者もよく知るレイ・カッツウェル博士をヘッドハンティングし、「グーグル・ベンチャーズ」と呼ばれるバイオ技術に関するベンチャー企業を立ち上げた。

その一環として、1000万ドルを投資し、創薬メーカーである「アディマブ」を買収したかと思えば、遺伝子研究の世界的権威であるボットステイン博士を中心に「カリコ」と呼ばれるプロジェクトを通じて、人間の寿命を限りなく伸ばす技術の研究開発に着手したのである。

この種の延命ビジネスの最先端を走っているのは、イギリスのオックスフォード大学のオーブレイ・ドゥ・グレイ教授である。拙著『団塊世代のアンチエイジング』(光文社)でも詳しく紹介したが、同教授は、自ら「センス・リサーチ財団」を創設し、遺伝子研究を進める中で、自らの肉体を実験材料として使い、「最低でも1000歳の寿命、可能性としては2000歳を目指す」と豪語している。

そうした動きをグーグルは新たなビジネスチャンスとして捉え、ビッグデータの解析技術を最大限に活用し、人間の寿命をコントロールするという究極のゴールを目指す方針を打ち上げたのである。「現在の平均余命を少なくとも20年、目標としては100年~200年は延命できるようにしたい」という。また、ウェアラブルと称される身体装着装置を医療機関と常時繋ぐことで、腕時計やメガネを通じて健康管理を徹底することも可能になってきた。

一見すれば夢物語のように思われるかもしれないが、飛行機が100年前に発明される前には、誰も人が空を飛べるようになると想像しなかった。また、思い起こせば、インターネットが日常生活にこれほど普及するようになる世界や、携帯やパソコンがこれほど進化する時代が来るとは、誰もが想像しなかったのではないか。

最近ではブロックチェーンと呼ばれる分散型台帳の技術を使い、遠隔で健康診断や治療も行う実験が加速するようになってきた。薬に関するトレーサビリティや効果の検証にも、この技術に対する期待が高まっている。この分野ではアメリカと中国による技術覇権争いが激化する一方となってきた。

例えば、2014年末には、アメリカで「人類の科学史上最大」と呼ばれる寿命延長のためのバイオテクノロジー会議が開催された。ハーバード大学をはじめ、世界の名だたる延命、生命科学の専門家が一堂に会し、かつてないほど創造的な研究成果が相次いで発表された。

具体例では、人間に例えれば「60歳の高齢者を20歳の青年に若返らせる研究」の成果も発表された。これこそが、冒頭に紹介したNMNの力である。何しろ、糖尿病のマウスを使った実験で、肥満状態にあるマウスにNMNを一週間飲ませた結果、血糖値が大幅に低下。「糖尿病も改善し、老化した膵臓の機能も蘇った」と報告されている。夢のような話だが、「60歳を過ぎた女性が20代に若返り、出産も可能になる」という。

更には、近年、遺伝子の解析スピードが急速に上がっており、ビッグデータの解析手法を使うことにより、長寿遺伝子の解析も長足の進歩を遂げている。その研究対象になっているのがサーチュイン遺伝子である。現在、7種類のサーチュイン遺伝子の存在が確認されている。普段は眠っているこれらの遺伝子を覚醒させることで、大幅な延命効果が期待できるという。

こうしたサーチュイン遺伝子の存在を発見したのが、先に述べたワシントン大学の今井眞一郎教授である。同教授によれば、通常、「あらゆる生物の細胞にNMNは含まれているのだが、加齢とともに減っていく傾向にある」とのこと。そこで、こうした細胞内のタンパク質の1種であるNMNを増やすことができれば、衰えた細胞が元の若々しい臓器の再生に繋がると仮定されている。さらにはアルツハイマー病についても、早い段階からこのNMNを取り入れていれば、病気の発症も抑えられるだろう。

わが国の食品加工会社でも、既にこのNMNを独自に製造できる術を開発している。要は、グーグルにとどまらず、アメリカの国防総省が先鞭をつけた、人体改造計画、延命研究は、まさに、世界のベンチャー企業や投資家の関心を大きく刺激し、新たな成長産業として飛躍を遂げる原動力となっているのである。

言い換えれば、人間の頭脳をビッグデータ化するとともに、人間の肉体や生命を永久化しようとする試みに他ならない。人間とマシーンの合体とも受け止められる。これを単なる空想の産物と笑い飛ばすのか、あるいは、科学的なニューベンチャーとして真剣に受け止めるのか。どちらの視点に立つかによって、人類と地球の未来が大きく左右されることになるに違いない。

自然との調和を大切に、旬の食材や周囲との絆を長寿の源としてきた日本的なアプローチでは、いくら健康に留意しても125歳あたりが限界といわれる。しかし、最新の医学研究や科学技術の恩恵を活かせば、桁違いの寿命1000歳も可能になるかも知れない。

「カオスの時代の幕開き」と見られる今日。グレイ博士曰く「現時点で40歳以下の人なら、事故や自殺に運命を左右されない限り、大かたの場合、これから数世紀にわたって生きることが可能になる」。

また、カリフォルニア大学の進化生物学のマイケル・ローズ教授も「現在、不死の研究に邁進している。20年前には抗加齢や若返りの研究は胡散臭いものと見なされていた。しかし、今ではれっきとした学問になった」と述べ、果実や野菜の害虫を実験材料に延命研究の分野で新たな発見を相次いで発表している。

アメリカの首都ワシントンにある国立衛生研究所(NIH)でも心臓病やガン以外に寿命延長研究のため年間20億ドルを超える資金を投入している。同種の研究はロシアや中国でも進められており、改めて生命の在り方が問われる局面が増えることになりそうだ。

既にアメリカでは議会でも宗教界でも、「どこまで人工的な寿命1000歳化を認めるべきか」について大きな議論が沸き起こっている。家庭や労働のあり方を含め、人間としての価値観が根本的に変わるからだ。少子高齢化の進行する日本こそ、こうした問題に無関心でいるわけにはいかないだろう。世界の動向も踏まえた上で、「課題先進国」を標榜する日本らしい健康寿命の設計図を打ち出す必要がある。もちろん、健康長寿が人類共通の願いである限り、日本はアメリカ、中国、ロシアとも協力し、その実現に真摯に取り組むべきであろう。