明治5年(1872年)1月、明治天皇は初めて牛肉を試食しました。それまで日本では仏教の影響もあり、4つ足の動物の肉を食する習慣はありません。それゆえ、1872年は日本で肉食の歴史が始まった年といえます。この機会に、時の右大臣であった岩倉具視は、部下に命じて西洋料理店を開かせ、宮内庁御用達となりました。これが現在も続く「上野精養軒」に他なりません。その後、日本人の間では肉食が一気に広がりました。

 ところが、ここにきて、肉食が地球環境を悪化させているとの観点から、「肉食を止め、環境負荷の少ない昆虫食に移行すべき」との議論が巻き起こっています。その火付け役が毎年1月末にスイスのダボスで年次総会を開催する「世界経済フォーラム」(通称、ダボス会議)です。

 日本を含め、世界から政治、経済、技術、メディア等各界の指導者を集め、新たな年の初めに、「今後の世界情勢を議論し、方向性を打ち出すこと」を目的としてきました。いわゆる「陰の世界政府」とも揶揄されているほどです。1971年以来、毎年、会合を重ねており、この総会に招かれることが「世界のトップリーダーに仲間入りできる登竜門」とまでいわれています。

 2023年の総会にも52人の国家元首を含む2700人の政府、民間の指導者やトップ経営者が集まりました。日本からも政治家や財界人が参加し、各国の要人らとの人脈作りに励んでいたようです。未来の総理と期待が集まる小泉進次郎衆議院議員もその一人でした。

 とはいえ、表の顔もあれば裏の顔もあるのが、こうした国際イベントの常でしょう。今回も地元で大きな話題となったのは、ヨーロッパ中から集まった「高級エスコート」と銘打った売春婦の数の多さでした。実は、スイスはヨーロッパでも有名な売春の合法化が定着している国です。

 世界から集まる権力者や大富豪をお目当てに「コンパニオン」や「エスコート」という美名のもと、大勢の美女軍団が闊歩し、地元のホテルはどこも満員御礼の活況ぶりだった模様。昼間のネットワーキングは当然でしょうが、夜のベッドワーキングも大いに盛り上がったようです。

 いずれにせよ、表のテーマは「分断が進む世界でいかに協調を実現するか」ということで、コロナなど感染症、ウクライナ戦争、環境・エネルギー問題など世界的な課題が熱心に議論されました。そんな中で、ひときわ注目を集めたのが「環境問題対策として、肉食を止め、昆虫食に移行すべき」との議論です。

 世界を席巻する温暖化や寒冷化などの異常気象を引き起こす原因と見なされているのが増え続けるCO2の排出量です。その観点から、「肉食を止め、環境負荷の少ない昆虫食に移行すべき」との議論が巻き起こってきたわけです。明治天皇がお聞きになれば、さぞやビックリされたことでしょう。

 もともとはマイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏が提唱したものですが、大豆などを加工した人工肉や家畜と比べCO2の排出量が少ない昆虫食を普及させることで、世界の環境問題や食糧問題を解決しようと訴えているわけです。今回の会合でもドイツのシーメンスの会長ら財界人からも、次々と「昆虫食賛成」の意見が出ました。シーメンスのスネイブ会長曰く「もし10億人が肉を食べなくなれば、世界の環境問題は解決に向かう。タンパク質は肉以外から接種すれば良い。肉食を卒業すれば、新たな食文化につながり、地球環境の改善が期待できる」。

 ゲイツ氏が資金を提供するWHO(世界保健機構)でも、同様の検討が進んでいる模様です。既に海外では「人工肉バーガー」や「昆虫寿司」が出回っています。オランダでは学校給食に昆虫食が実験的に導入されているほどです。

 実は、ゲイツ氏は手回し良く、「ビヨンド・ミート」や「インポッシブル・フーズ」など代替肉ビジネスに着手しています。マクドナルドやケンタッキー・フライド・チキンへも新たなメニューとして売り込み攻勢を仕掛けているようですが、まだ期待したような成果は得られていないようです。

 日本でも農水省が民間企業と提携し、未来の食文化プロジェクトの一環として昆虫食の研究に着手しています。もちろん、昆虫に限らず、海藻やサボテンなどの食用化を加速する動きも出始めているようです。

 また、ダボス会議で熱心に議論されたもう一つのテーマは「人口削減」でした。同フォーラムの顧問を務める歴史家兼未来学者でもあるユバル・ハラヒ氏曰く「世界人口の大半は必要ない。現代のIT、ロボット技術があれば、労働者や軍人に取って代わることが十分可能だ」。こうした極端と思える議論に賛同する世界の経営者が多数いるようです。イギリスのチャールズ新国王もかつて「世界人口は30億人ほどが理想的だ」と述べていました。

 無視できないのは、「ダボス会議」での議論や政策提言は数年後には世界の主流になっていることが多く、主催者のクラウス・シュワッブ氏は「ここから世界を変える」と大見えを切っています。ひょっとすると、今や世界を席巻している「和牛」や「日本式の寿司」も間もなく表舞台から姿を消すこともありうるでしょう。寂しい限りですが、今のうちに、心して味わっておくのが賢明かも知れません。