「新型コロナウィルス対応が危ぶまれる北朝鮮」

世界中に蔓延が広がる新型コロナウィルス(COVID-19)であるが、そんな中、「感染者は一人も発生していない。わが国の感染防止策は万全だ」と豪語してきたのが北朝鮮である。確かに、1月下旬の段階で中国との国境を封鎖し、外国からの訪問者もすべてシャットアウトするという素早い対応を見せていた。とはいえ、そうした宣伝文句を信じる人は少ないだろう。

韓国やアメリカの政府関係者の間では、「北朝鮮でも感染者や死者が数万の単位で発生しているに違いない」と憶測を呼んでいるほどである。実際、この間、北朝鮮から中国へ脱北を試みた北朝鮮の男性が国境警備隊に射撃され、中国国内の病院で治療を受けた際に、新型コロナウィルスに感染していたことが判明している。

韓国にある脱北者の支援団体の報告によれば、中朝国境付近を中心に北朝鮮内部でも感染者が急増しており、遺体の火葬が間に合わないとの情報が伝わっているとのこと。何しろ、アメリカが発動した経済制裁の影響もあり、北朝鮮では医療設備や医薬品が決定的に不足している。

金正恩委員長を始め、労働党幹部やその親族は特別な専門病院で治療を受けることができる。特に、金正恩委員長に関しては、必要に応じてフランスから医療チームが呼ばれ、心臓病や糖尿病から発生する体調不良の看護に当たってきた。とはいえ、ほとんどの国民にとっては薬も医療も高嶺の花でしかない。たたでさえ干ばつや水害の影響で食糧不足が恒常化しているため、国民の健康状態は悪化する一方である。感染症への免疫力も低下しているに違いない。

実は昨年9月から10月にかけ、北朝鮮を訪問した日本の参議院協会の代表団に対して、労働党の下部機関である朝鮮対外文化連絡協会の幹部からは「日本からの医薬品の提供をお願いしたい。日本人拉致被害者の再調査と問題の早期解決にも努力するので」という申し出がなされた。それだけ、北朝鮮の医療事情はひっ迫しているというわけだ。

この訪朝団には日本医師会の代表も参加しており、朝鮮医学協会や金日成総合大学平壌医学病院の責任者らとの面談の際、世界医師会の会長でもある日本医師会の横倉義武会長からの要請が行われた。その内容は「国際的な医療協力を促進するためにも、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が世界医師会に加盟してはどうか」というものであった。

この日本側の提案に対して、北朝鮮からは「即加盟したい」との意思表示がなされた。医療や医学の面での専門家の交流を通じて、日朝間の長年の懸案である「拉致問題」にも解決の糸口が得られる可能性が生まれたのである。こうした日朝間の新たな交流促進には中国の駐日本大使で朝鮮族出身の孔氏の水面下の関与が大きく働いている。

こうした日朝間の新たな展開には韓国やアメリカ政府も大いに注目し、訪朝団が帰国するや韓国大使館やアメリカ大使館から情報提供の要請が相次いだ。そのため、訪朝した参議院協会のメンバーはできる限り北朝鮮の状況を丁寧に説明し、国際的な医療支援と専門家の交流の必要性を訴えた次第である。

では、肝心の日本政府の対応はどうであったのか。残念ながら、日本政府の関心は薄く、訪朝団の代表が首相官邸を訪問し、菅官房長官に直接報告したにもかかわらず、「聞き置く」ということで、具体的な動きにはつながっていない。

そうこうするうち、新型コロナウィルス騒動が勃発し、北朝鮮では「世界的な感染症がもたらす経済的な苦境を乗り越えるため、これまで以上に打って一丸となり労働に励むように」との指示が出された。その矢先に急浮上してきたのが「金正恩重篤説」である。これまでも何度か重病説や暗殺未遂事件など、金正恩委員長の動静に関しては様々な憶測が世界を駆け巡ってきた。

今回も出どころはアメリカであるが、世界中が新型コロナウィルス騒動に飲み込まれている最中であるだけに、「金正恩委員長は心臓病の手術を受けたが、その後、経過が思わしくない。ひょっとしたら、新型コロナウィルスに感染したか、あるいは感染を避けるために別荘に籠っているようだ」との噂が拡散している。

アメリカのCNNが米政府高官からの情報として流したものであるが、その実態は闇の中。しかし、「もし自分が大統領になっていなければ、アメリカは北朝鮮と戦争に突入していた。金正恩委員長は大の友人だ」と公言するトランプ大統領が「金委員長の健康を祈っている。彼の健康状態を直接確認してみたい」とコメントしたのは異例だ。

このタイミングでのトランプ大統領の言動から判断すれば、アメリカ政府は最悪の事態を想定し、非常事態に備えつつも、北朝鮮とのトップリーダー同士の信頼関係を軸に、事態の鎮静化に向け、「北朝鮮への医療協力を惜しまない」との前向きのメッセージも発している。それだけ柔軟な姿勢を見せる余裕があるといえるだろう。

「前提条件なしで金委員長と会う用意がある」と北朝鮮との関係改善に意欲を見せていた安倍首相だったが、相変わらずの「マスク不足」や鳴り物入りで打ち出した布製マスク2枚の全戸配布計画も「不良品続出」でメンツ丸つぶれ。

「感染症など日本には無縁だ」とばかり、専門的な医療体制をないがしろにしてきたツケが回ってきたといっても過言ではない。既に「医療崩壊」の様相を呈しているのが、今の日本である。中国やアメリカの成功例や失敗例を“他山の石”として早急に学び直す必要があるだろう。とても困窮する北朝鮮に援助の手を差し伸べる余裕はなさそうだ。