「新型コロナウイルスの次に人類を襲う食料危機」
新型コロナウイルスの拡大に歯止めがかからない。その陰で、我々の食生活を支える農業を根本から激変させるような動きが進んでいる。穀物、野菜、果物など、食材を育てるには種(タネ)が勝負のカギとなるが、そのタネの運命が危うくなっているのである。
何が危険か、と言えば、タネを開発した育成者の権利(育成者権)の保護が強化されるという動きが加速している点である。1991年、「植物の新品種の保護に関する国際条約」(UPOV)が改正され、育成者権が知的財産権の一つとして認定されるようになった。要は、感染症用のワクチンの開発者に知的特許や財産権が認められるのと同じように、タネについてもその品種に関する育成者権が与えられるというわけだ。
一見、問題がないように聞こえるだろうが、この育成者権の付与には大きな落とし穴が隠されている。例えば、日本では「農民の権利」として、自分が育てた作物に実ったタネを自分で採って植えるという「自家採種、自家増殖」の自由が認められていた。そのため、農林水産省では「登録品種」という枠組みの中で育成者権を保護に努めてきた。
ところが、そうした農家の権利を奪うような法改正が行われようとしているのである。ここには種子の市場をコントロールしている世界的な種子メーカーの思惑が隠されている。現在、世界の種子マーケットはグローバル企業3社が牛耳っているといっても過言ではない。具体的には、「バイエル・モンサント」、「ダウ・デュポン」、「シンジェンタ・中国科工集団」である。彼らが世界の種子市場の何と70%を押さえている。
彼らにとっては、農家の自家採種はビジネス上の邪魔者でしかない。農家が自分でタネを採種して、自分で増殖してしまえば、自分たちのタネが売れなくなってしまう。今でも日本の農家は農協等を通じて、海外製の農薬や化学肥料を大量に購入させられている。今後は先祖代々育まれてきた日本生まれのタネが自由に使えなくなる可能性が高いのである。
モンサントなど海外の大手種子メーカーは世界各国で「育成者権の保護」の美名の下、自家採種禁止法案を強力に推進してきた。登録品種の場合には、自家採種が禁止されるため、農家は毎年タネを購入するか、自家採種の許諾料を払わなければ作物を育てられなくなるというわけだ。
経営難に陥る農家が続出し、離農が拡大すれば、日本の食料自給率は一層の低下が避けられない。新型コロナウイルスの影響で、一部の食料輸出国は自国の需要を優先するため輸出規制の動きを強めつつある。このままでは食料パニックが発生する事態にもなりかねない。
国連の世界食糧計画の予測によれば、「COVID-19の影響で、世界的な食糧危機が起こり、今後は1日平均30万人が餓死する恐れがある」。由々しき事態が目前に迫っているわけだ。途上国の多くでは「コロナで死ぬか、食糧難で死ぬか」という最悪の選択を迫られている。
更に深刻な懸念材料が遺伝子組み換え種子がもたらす人体への悪影響である。海外の種子メーカーは市場拡大の切り札として病害虫に強い遺伝子組み換え種子を売り込んできた。その結果、途上国ではゲノム編集された種子しか栽培できないような事態も生まれている。彼らの手口は巧妙で、最初はアメリカ政府機関である海外援助庁(USDIA)が無償でタネを提供してくれる。戦火に見舞われたアフガニスタンやイラクでは重宝されたものだ。
ところが、数年を経て、地元の在来型の種子が使われなくなった頃を見計らい、「無償提供の期間は終了した、今後は有償となる」との通告が出されるのである。途上国の農家にとっては寝耳に水の話。しかも、「F1」と呼ばれる品種は一回しか実を結ばないように遺伝子操作が施されているので、毎年、種子メーカーからタネを購入せざるを得ない。
栄養素の観点から見ても、遺伝子組み換え種子と在来型の種子から栽培されたトウモロコシで比較すれば、その差に愕然とさせられるはず。なぜなら、ミネラル等の栄養価は10分の1、カルシウムにいたっては40分の1にまで減少しているとのデータもあるからだ。納豆や豆腐に使われる大豆にしても、アメリカ産の大量生産された品種には発がん性物質が含まれているとの指摘が頻繁になされている。
しかし、世界的な種子メーカーの動きは日本人の発想をはるかに超えているように思われる。世界がCOVID-19で右往左往している状況を横目で睨みながら、「種子争奪戦」を有利に進める布石を着々と打っているからだ。残念ながら、こうした動きに日本はまったくと言って良いほど、関心のレーダーを向けていない。このままでは、我々は「座して死を待つ」という事態に直面するのも時間の問題であろう。
言い換えれば、世界から貴重なタネが喪失したような場合には、最大の出資者である巨大種子メーカーや世界人口の抑制コントロールを目指すロックフェラーラー財団やゲイツ財団などが優先的に人類共通の財産である種子を独占できる可能性が大きいわけだ。かつてノーベル平和賞を受賞したアメリカの元国務長官ヘンリー・キッシンジャーは次のように語っていた。
「アメリカの第三世界外交の最大の要(かなめ)は人口抑制策である。アメリカが必要とする天然資源の多くは発展途上国に眠っている。石油を支配する者は国家をコントロールできる。食糧を支配できれば、人類をコントロールできる」。その食糧をコントロールするのが種子(タネ)である。
このタネを巡る争奪戦が静かに始まった。遺伝子組み換え種子の最先端の研究はアメリカの国防総省が主導している。世界が「見えない敵」と呼ばれる新型コロナウイルスとの戦いに気を取られている隙にである。なぜなら、コロナウイルス禍が終息した後には食料危機が待ち構えているわけで、敵対国家には種子の提供を拒否することができるからだ。
まさに「病原体の兵器化」や「武器としての種子」がアメリカ政府の主導の下で加速しているといっても過言ではない。利益最優先の種子メーカーとの戦いに勝つには、食や農業との向き合い方を全面的に変えることから始めねばならない。日本であろうと中国であろうと、伝統的な食材を守るには日々の食に感謝し、農業の重要性、そのカギとなる種子を大切に育むことから始めることだ。「フードテック」と呼ばれる人工的に食材を生み出す研究も進みつつあるが、安全性には疑問符も付きまとう。やはり合言葉は「自然と共に生きる!」でありたい。