最近話題の月面探査ですが、中国がアメリカから主導権を奪い取るのではないかとの観測が専らです。1969年から1972年の間に、合計12人のアメリカ人が月面に着陸しました。その後は足踏み状態が続いていますが、アメリカ政府は今後10年以内に月面に返り咲く準備を進めています。
一方、中国も探査機を月面に送り届けており、2030年までに中国人宇宙飛行士が月面着陸に挑むことになっています。要は、米中の月面到達と月資源開発に向けての競争が激化しつつあるわけです。
NASAの月計画は「アルテミス」と呼ばれています。厳しい財政事情に直面するアメリカはコストを分散するために国際的および商業的パートナーを巻き込まざるを得ない状況です。宇宙ビジネスに熱心なイーロン・マスク氏の登場は、トランプ氏にとっては頼み甲斐のある「助っ人」に他なりません。
そこで、NASAは今後3回のミッションを通じて、アメリカ軍の支援も得ながら月面にアメリカ人宇宙飛行士を戻す計画を構想。2022年11月、NASAはオリオン宇宙船に飛行士を乗せないで、月周回軌道に打ち上げることに成功。この成功を足掛かりに、2025年後半に予定されている「アルテミスII」は4人の宇宙飛行士を乗せますが、彼らは月面には着陸せず、宇宙船内に滞在し、観測を継続するとのこと。
当初、「アルテミスIII」は2024年中に打ち上げられる予定でしたが、延期が繰り返され、現時点では、2026年9月までに実施されることになっています。しかし、その通りに行くのかどうか、予断は許しません。
一方、中国の宇宙計画は、大きな失敗や遅れもなく、急速に進んでいるようです。 2024年4月、中国の宇宙当局は、2030年までに宇宙飛行士を月に着陸させる計画が順調に進んでいると発表。
2003年に初の宇宙飛行士を打ち上げた国にとって、これは異例のスピードです。中国は2011年から宇宙ステーションを運用しており、「嫦娥」月探査プログラムを通じて、挑戦的な試みを続けています。ロボットを活用したミッションでは、月の裏側からサンプルを採取し、地球に持ち帰りました。
また、中国は自国の宇宙飛行士を着陸させるために欠かせない技術的テストを繰り返しています。次のミッションは月の裏側に位置する南極に着陸する予定ですが、この地域は影になったクレーターに氷が存在するため、宇宙基地に欠かせない水が確保できる可能性が高いのです。
水があれば、月面基地で生命維持に使用されたり、ロケット推進剤に変えられたりします。月でロケット推進剤を製造すれば、地球からロケット推進剤を運ぶよりも安価になり、月探査がよりスムーズにいくはず。アメリカの「アルテミスⅢ」が南極着陸を目指しているのも、同じ理由によるものです。
元NASA長官のマイケル・グリフィン氏は、中国が月面着陸をどのように達成するかを見極めながら、よりシンプルな戦略を提唱しています。すなわち、NASAは「スペースX」のような「新興企業」ではなく、ボーイングのような伝統的な商業パートナーとの連携に活路を見出すべきとの発想に他なりません。
ただし、「スペースX」は、国際宇宙ステーションへの乗組員の派遣においてボーイングよりも経済的に成功しているわけで、トランプ新大統領からの信頼も厚いことを考慮すれば、「スペースX」が今後の宇宙開発においては先行するでしょう。マスク氏は中国の要人とも太いパイプを有しているため、電気自動車のみならず、宇宙船や月面開発の分野でも米中協力に向けての橋渡し役が期待されているところです。