このところ、インドの躍進が世界の注目を集めています。何しろ、人口の大きさでは中国を抜き、世界1の人口大国の座を手にしたばかりです。市場規模の大きさも魅力ですが、月の裏側に観測機を無事着地させるなど、技術力の高さでも他の国々を圧倒しています。
そうしたパワー全開のインドを率いるモディ首相は9月にニューデリーで開催されたG20サミットの場を最大限に生かし、「グローバル・サウスの名主」としての地位を確立しようと奮闘中です。何しろ、BRICSを5か国から11か国に拡大したのはモディ首相の成果に他なりません。それまで、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5か国でしたが、「これからはグローバル・サウスが世界をけん引する時代だ」と主張し、エジプト、アルゼンチン、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の6か国を加えて「BRICS11」を発足させたのです。
その勢いを駆って、G20サミットにもアフリカ連盟を正式に加盟させました。実は、アフリカには54か国が存在し、GDPの合計は2.4兆ドルに達しています。人口も資源も豊富ですが、かつてアフリカを植民地化してきたヨーロッパはいずれも影響力を失っています。
そんなインドの躍進ぶりを横目で睨みながら、中国は地団駄を踏んでいるに違いありません。なぜなら、ほぼ2世紀に渡って「人口世界1」の座にあった中国ですが、インドに追い抜かれたわけですから。
国連の最新の人口統計予測によれば、去る4月末、インドの人口は中国を凌駕したと報告されました。本年末のインドの人口は14億2900万人で、中国は14億2600万人と予測されています。このままでいけば、インドの人口は2063年には17億人を突破するはずです。
しかも、インドの特徴は若年層の大きさです。中国では人口の15%弱が65歳以上で、この比率は年々増加しています。言い換えれば、人口の高齢化が急速に進んでいるわけです。長年、「一人っ子政策」を続けてきた影響もあり、子供の数は抑制されてきたのが中国。
一方のインドは女性が平均して6人の子供を出産してきました。しかも、平均年齢は28歳。やはり現役世代人口の多さは経済力にも影響します。インド国立銀行の予測によれば、GDPで既にイギリスを抜いたインドですが、ドイツや日本も間もなく追い抜き、2029年にはアメリカ、中国に次いで世界第3位の経済大国に躍り出るとのこと。
今後10年以内に、インドのGDPは現在の3.4兆ドルから8.5兆ドルに急増すると見られています。ちなみに、今年の経済成長率は7%と予測されています。そうしたインドの未来に期待し、アップルを筆頭に欧米の企業は、この人口超大国への投資と工場進出の動きを加速中です。日本からもスズキ自動車を筆頭に、NTTデータ、パナソニック、楽天などがインドでの事業展開を強化しています。
よく知られていますが、インドは「ゼロの発見」に象徴されるように数学教育に秀でています。そのため、IT人材の宝庫とも言われるほどで、日本を含め欧米各国ではインド人のITエンジニアの活躍が目白押しです。
もちろん、インドにはかつてのカースト制度の名残もあり、社会階層間の対立もあります。
しかし、経済的な豊かさが広がれば、そうした「負の遺産」も早晩克服される可能性が高くなるでしょう。あまり知られていませんが、インド人の大富豪の数は2022年に80万人に達し、中国に引けを取らないほど急増しています。
また、海外に移住する大富豪の数でも、インドは中国の後を追いかけているようです。例えば、中国の大富豪は昨年、1万3500人が国外に活動拠点を移しましたが、インドは7500人でした。海外にはチャイナタウンと同様にインドタウンが急増しています。
モディ首相はアメリカともロシアとも距離を置く、いわゆる「第3国外交」を強力に推し進めており、「グローバル・サウス」の代表を目指しているわけです。中国との間には領土問題を抱えています。しかし、モディ首相は中国との間でも関係改善の道を探ることに余念がありません。ヨガを日々実践し、伝統的な治療法「アーユルヴェーダ」の海外展開を後押ししているモディ首相。一方、中国では太極拳や漢方が今日でも社会に根付いています。
もし、中国とインドが連携を深めれば、健康産業を始め、ITや経済に新たな風が到来し、世界の流れは大きく変わるはずです。大英帝国の時代が100年続き、その後、アメリカの世紀が100年続きました。これからはアジアの時代が到来するでしょう。日本にとっても連携を深める相手としてのインドと中国の重要性は増す一方と思われます。