世界経済フォーラムの夏季会合(通称「夏季ダボス会議」)が6月27日から中国の天津市で開幕しました。コロナ禍の影響で中止されていましたが、4年ぶりのイベント開催にこぎ着けたというわけです。今回はモンゴルやベトナムの首相ら各国のトップをはじめ、国際機関や企業の代表ら1500人の参加者が100か国から結集しています。
冒頭、中国の李強首相が演説し、最近の景気減速を踏まえつつ、「年間5%の経済成長」達成に強い自信を表明しました。7月以降には財政出動を実行し、景気の底上げを意図しているに違いありません。
とはいえ、今年の会議の主要なテーマは「チャットGPT」に代表される生成型AI(人工知能)です。その研究開発や活用のあり方が熱心に議論されています。その背景には、このところのAIの急速な普及が我々の生活や仕事に急速に影響を及ぼし始めている現実があります。
その代表選手と言えるのが「チャットGPT」でしょう。昨年末に登場し、瞬く間に4億人ものユーザーを魅了しました。対話型のAIサービスで、文章や画像を瞬時に生成してくれる生成AIに他なりません。このような便利なツールがあれば、自分の頭を悩ませなくとも、ビジネス用の企画書も学校の課題論文もあっという間に完成できます。
アメリカでは既にAIが弁護士や医師に代わって相談に乗ってくれるようになりました。
忙しい医師には患者とじっくり向き合うことはほぼ不可能な話。そこでAIが患者の悩みに寄り添い、的確なアドバイスや処方せんを準備してくれるということです。
「機械任せで大丈夫か」と心配する向きも多いと思いますが、アメリカの大学の研究チームが分析したところ、生身の医師よりAI医師の方が、診断が正確かつ素早いことが判明したといいます。
確かに、膨大なビッグデータから最適の情報を選び取り、利用者の関心に寄り添う形で文章や画像を生成してくれるわけで、忙しい人間にとっては「頼りがいのある助っ人」でしょう。こうしたAI技術が進歩すれば、人間はいずれ自分の頭を使わなくなりそうです。
また、現在アメリカで加熱している2024年の大統領選挙に向けての候補者間の争いも、AIによって生成された精巧な偽画像が拡散されており、有権者の投票にも影響を及ぼすことが懸念されています。
例えば、トランプ前大統領がコロナワクチンの推進役を務めていたファウチ博士と公衆の面前でキスをしているではありませんか。はたまた、バイデン大統領が可愛らしい少女に異常に接近、接触する動画も出回っています。しかも、本人の音声も見事に再現されているため、ついつい本人と見誤ってしまうでしょう。
こうした偽情報がネット上で拡散され、データベースに蓄積されていけば、「チャットGPT」はそうした偽情報に基づく回答や新たな文書を作成するようになるはずです。となれば、情報の真偽を見極めることはほとんど不可能になってしまいます。
ことの深刻さに警鐘を鳴らす声も聞かれ始めました。ウォールストリートの大手金融機関では仕事に「チャットGPT」を使うことを相次いで禁止すると発表。日本では「公務員の残業時間を減らすことになる。行政サービスの向上につながる」と、西村経済産業大臣らが積極的な活用を推進しています。
実は、国連のグテレス事務総長もAIに関する規制を行う国際機関の設置が必要と言い始めました。というのは、AIは人類にとって核戦争と同じレベルの危機をもたらしかねないとの指摘が出ているからです。
問題は「チャットGPT」の開発者である「オープンAI」のアルトマン社長の狙いが隠されたままであることです。たびたび来日しているアルトマン社長ですが、日本の政府や企業への売り込みに熱心に取り組んでいます。6月には慶応大学で講演しましたが、生成AIの未来について楽観論を唱えていました。曰く「AIは更に進化し、賢くなる」。
そんなアルトマン社長ですが、世界経済フォーラムやビルダーバーグ会議の常連メンバーです。両組織とも「影の世界政府」と揶揄されるパワーエリートの集まりに他なりません。「グレート・リセット」を唱え、従来のビジネスモデルや価値観を一変させ、自分たちの天下をもたらすことに必死になっています。
要は、世界を思うがままに操るために、人々から考える能力を奪い取ることも視野に入れているようです。生成型AIへの依存度が高まれば、まさに彼らの思うつぼになりかねません。便利さに慣らされてしまい、知らず知らずのうちに誘導されてしまうでしょう。偽情報と真実との区別もできなくなるはずです。その意味では、今が人類の分岐点かも知れません。自ら考え、判断した上で、行動する自由を大切にしたいものです。