世界中で新型コロナウィルスの感染が大きな問題となっています。感染者数も死亡者数も増える一方です。このままでは東京オリンピック・パラリンピックの開催も危ぶまれています。ウイルスの変異種も拡大し、予防も治療も難しくなってきました。

 そのためか、無観客での開催や競技に参加する選手全員に「万が一、大会期間中に感染し、健康を損なったり、死亡した場合にも、主催者を訴えない」との誓約書を求めることになっています。また、海外からの選手団には「日本人との交流は一切、禁止する」との通達も出されており、「多様な文化や人種の出会いによる世界平和の実現」という本来のオリンピックの精神はどこかに追いやられてしまいました。

 このような状況下で、果たしてオリンピックを開催する意味があるのでしょうか?日本国民の7割近くは「開催反対」という意思表示をしています。とはいえ、決定権を握るのは国際オリンピック委員会(IOC)です。IOCでは「戦争や大規模災害が発生しなければ中止はありえない」との立場を崩していません。どうやら世界中で億の単位で感染者が発生している状況は「大規模災害」には当てはまらないようです。

 もし、オリンピックの会場や選手村でクラスターが発生したような場合には、「オリンピックの歴史に汚点を残すこと」は避けられず、「日本での開催は今後100年の間はあり得ない」ことになるでしょう。

 そんな危機的状況に直面する日本ですが、より深刻な健康問題が深く静かに進行しています。それは未来を担う子供や若者の間で、「若年性痴呆」が拡大していることです。日本ではコロナ禍の影響で緊急事態宣言が繰り返し発令されています。政府も自治体も「不要不急の外出を控えるように」と要請を出してはいますが、法的な強制力はないため、一向に守られていません。それどころか、飲食店でアルコールが飲めないため、若者を中心に「路上飲み」が急増する有様です。結果的にごみの散乱や治安の悪化が深刻化しています。

 こうした傍若無人な言動を引き起こしている原因の一つが「ゲーム脳」ではないかとの指摘が出ています。携帯メールが手放せない。テレビゲームやホラー映画に夢中。在宅勤務が続くなか、終日、パソコンの前で仕事。他人とのコミュニケーションは皆無。

 こうした環境に置かれると、徐々に脳の神経回路がおかしくなり、抑制機能が働かなくなるようです。その結果、「キレる」「ムカつく」青少年は増えるばかりで、社会性や道徳心、そして羞恥心まで失われた人間が大量に生み出されるといいます。

 実は、我々の額のすぐ後ろには「前頭前野」と呼ばれる場所があり、ここが創造性や理性を司っているのです。脳の約35%を占めているため、「人間の司令塔」とも呼ばれています。例えば、「他人を傷つけよう」とか、「攻撃したい」という衝動にかられたとしても、自分の社会的な立場や家族のことを考えて自制するのが普通です。それはこの前頭前野から抑制命令が出るからなのです。

 ところが、テレビゲームやパソコン画面の前で長時間過ごし、朝から夜寝るまで携帯画面に張り付いていると、脳の活動を正常に働かせる前頭前野のβ(べーた)波の量が少なくなり、ついにはまったく出なくなることが脳神経科学の研究で明らかになってきました。これは重大事です。前頭前野の活動が著しく低下すれば、血流も阻害され、その部分が退化します。これは高齢者でよく見られる痴呆に他なりません。まさに「若年性痴呆状態」といえるでしょう。

 こうなると、理性も道徳心もへっちゃらで、羞恥心とか他人の迷惑などまったく考えられなくなってしまうわけです。総務省の研究でも、男女を問わず、ゲームへの関与の度合いが大きいほど、暴力的言動に走る傾向が見られることが確認されています。ゲームへの依存度が高い程、非行や問題行動を起こす割合も高くなることが分かってきました。

 逆に、「ゲーム脳になると集中力が高くなる」とか「反射神経が研ぎ澄まされる」とか言いますが、そうしたゲーム擁護論には大きな落とし穴があります。確かに、ゲームに反応し手や指の動きは素早くなるでしょう。しかし、ゲーム以外には注意散漫となり、感情だけで行動する傾向が助長されるのです。人間としての理性や抑制心を代償にしてまで、ゲームだけに通用する反射神経を身に着けても意味がないはずです。

 また、携帯メールで文章を作る行為は、脳を使って考えているように思われるかも知れませんが、実はほとんど頭を使っていません。なぜなら、携帯メールの文章は主語も述語も自由勝手で、漢字もひらがなも画像として認識しているだけでボタン操作の繰り返しに過ぎないからです。自分で考えなくとも、携帯が勝手に先回りして言葉を選んでくれることも多いはず。これでは文字を読むことはできても、自分で書く力は退化するしかないでしょう。

 少年犯罪の増加とゲーム脳の関係にも注目が集まりつつあります。日本でも中国でもゲームや携帯依存症は増え続けているようです。コロナの感染症も心配ですが、ゲーム脳の拡大も人間性を失うことになるわけで、意識的に予防せねばなりません。コロナの影響で「手洗い、うがい、マスク」が日常化してきましたが、ゲームや携帯メールからも脳と心を守る姿勢が欠かせないでしょう。