最近、世界保健機関(WHO)では、再発が懸念される新型コロナウィルス対策に取り組むと同時に、「エイジテック」を推奨し始めました。何かと言えば、各国政府に対して、健康医療への投資、社会インフラ、高齢者向けの住宅や介護サービスの拡充を求めるということです。
なぜなら、長期的に見れば、人々の生命力や免疫力を高めるためにも、「エイジテック」と呼ばれる、「長寿と先端技術の融合」が最も効果的と判断されるからに他なりません。対処療法的にワクチンや治療薬に奔走するのではなく、人間本来の機能強化を通じて、感染症をはねのける道を目指そうと言うわけです。
そうした流れを受け、世界的に注目を集めているのが、ドミトリー・カミンスキー氏。本ブログでも以前紹介しましたが、同氏は長寿ビジネスの旗振り役の起業家で、モルドバの出身です。
同氏曰く「大きく延命できる技術は既にある」「寿命は最低でも50年増やす」「自分は軽く123歳までは行ける」「過去最高齢記録は122歳まで生きたフランス人女性ジャンヌ・カルマンだったが、その上を行った人には100万ドルをプレゼントする」。
ちなみに、カルマンさんは1997年に死亡しましたが、100歳まで自転車を乗り回し、110歳まで自活していました。また、117歳までタバコを愛し、チョコレートも大好きで、何と赤ワインは死ぬまで欠かさなかったと言います。
カミンスキー氏の目標は「180歳超え」。多くの投資ファンドを運営していますが、「数年以内に、より精密な未来人体延命ビジネスを立ち上げる」と豪語しています。今、手に入る技術で「123歳は確実だ」というのが、彼の口癖です。
彼はメディア向けに未来の延命ビジネスを積極的に語るのみならず、自ら「グローバル・ロンジェビティ・コンソーシアム」と銘打った組織を立ち上げ、長寿ビジネスへの投資を加速させています。
このコンソーシアムの一環として「エイジング分析エージェンシー」なる会社も起業。この会社を通じて、シンガポール政府が進める「長寿へのプロアクティブ政策」を後押しまでしており、筋金入りの延命ビジネスリーダーと言えるでしょう。
一方、ネット業界最大手「アマゾン」の創業社長ジェフ・ベゾス氏も「ユニティ・バイオロジー」という企業が開発した「老化細胞を除去する技術」の実用化を支援してきています。それに加えて、ベゾス氏は世界中の大富豪仲間に呼びかけて、「アルトス・ラボ」というベンチャー企業にも投資を行うようになりました。これにはロシアの大富豪ユリ・ミルナー氏も加わっています。
彼らの関心は「いかに人を若返らせるか」です。ミルナー氏は潤沢な個人資産を不老不死の研究に投入すると宣言しており、2012年にノーベル賞を受賞した山中伸弥教授もアルトスの科学諮問委員会の会長に就任しました。要は、世界中の生命科学の頭脳を結集し、不老不死を実現しようというわけです。
ちなみに、「シティバンク」の報告書によれば、「現在のアンチエイジング・ビジネスは世界全体で2000億ドル市場を形成している。ただ、これには医学療法分野は含まれていない。今後、医療ビジネスのすそ野が広がれば、この市場は一気に拡大するだろう」。
また、「アマゾン」や「グーグル」とは別に、普段は眠っているサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)を活性化させることで健康長寿を達成する研究にも拍車がかかっています。カロリー制限や運動で活性化することも可能ではありますが、赤ワインに含まれるポリフェノールの一種である「レスベラトロール」でも活性化できるとの医学的研究成果が明らかになってきたことも影響しているようです。言い換えれば、病気予防と若返りが同時に可能になるということでしょう。
最近の注目株は「NAD(ミトコンドリアでのエネルギー補完因子、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」です。これはサーチュインの活性化にも効果抜群といわれています。アメリカのワシントン大学で研究を続ける今井眞一郎博士が血液中のNADに老化防止効果を発見したのがきっかけとされ、各国で追加の研究、実験が行われているわけです。
加えて、NADが減少することをNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)が予防するとの研究も明らかになってきました。特に記憶を司る脳の機能が低下するのを押さえる効果がNMNにはあるとされるため、アルツハイマー病の予防にもなるとのこと。筋肉内の血管の強化も期待されるということで、NMNは健康長寿の切り札として世界的にも注目が集まっています。
いずれにしても、「生き残り(動物との戦い)や長生き(体に良い食物の確保)」は人類の歴史そのものです。これからも、続々と健康長寿を謳ったビジネスは登場してくるに違いありません。いわば、自己責任で何を選ぶか、そうした選択眼が問われる時代に突入していることは間違いないでしょう。