この8月中旬、広州市と深圳市を訪問し、多くの出会いと新たな発見がありました。主たる訪問先は先進的な教育を実践する中学や高校などでしたが、それ以外にも歴史的文化施設や先端技術の研究開発の現場も視察することができ、中国の現状と可能性を間近に感じ取ることができた次第です。
中でも印象深かった訪問先は深圳御光新材料有限会社(FILMBASE)です。ガラスという当たり前の素材の可能性を無限大に広げ、世界的なビジネスモデルに発展させようとする気概と技術力に圧倒されました。しかも、大都市の設計に限らず、店舗のインテリアや個人住宅の空間の仕切りにも新機軸を導入する工夫と情熱には社会全体の発展と進歩を実現したいとの熱い思いがみなぎっているではありませんか。
恐らく中国政府の国家戦略とも符合しているように思われます。今後は教育の現場でも活用の可能性が生まれるに違いありません。特に感心したのは、同社の女性経営者がドイツで活動する夫と国境を超えて新たなビジネスモデルの開発に手を携えて刻苦奮闘している物語を明るく楽しそうに語ってくれたことです。
地球温暖化が進む中、断熱シートを加えたガラスの応用範囲の広さを実感できました。自動車や列車への応用も進むに違いありません。また、屋内外のディスプレーは3次元的な要素も加味されており、まだ日本では普及していない技術が多く、目を見張ったものです。
この女性経営者は展示品を詳しく紹介してくれたのみならず、自らの執務室に案内してくれましたが、まさに化学の実験室そのものでした。昼夜を問わず、新たなアイディアを形にするために失敗を厭わず、まい進している姿が想像でき、中国の新たな時代を背負う若手経営者の意気込みを感じたと言っても過言ではありません。
実験学校でも同じような熱気を校長や学生から感じることができ、自国の未来に自信と誇りを抱いている様子を直に知ることが最大の収穫となりました。例えば、広州実験中学校では想定外の発見と感銘を得ました。
具体的には、同校の掲げる「四方向の質観」教育を通じて、学生の主体性を重視し、潜在的な伸びしろを引き出す仕掛けが実践されているようで、先進的かつ有効な手法と思われました。教師も学生も完ぺきではありませんから、お互いに刺激し合い、潜在力を引き出す環境作りが欠かせません。そうした観点から師弟関係や教育環境を柔軟かつ大胆に整えようとする熱意には圧倒されるものがありました。
歴史的文化施設としては、日本ともゆかりの深い孫中山先生を記念する中山記念堂設が圧巻でした。日中の歴史的つながりの深さを実感できた上、様々な築材料も国内のみならず海外から時間をかけて調達していたとのこと。驚かされたのは当然ですが、建築にかけるひたむきな熱意がひしひしと伝わってきたものです。
また、大規模なステージと巨大な観客席は様々なイベントを繰り広げる舞台としては素晴らしいものでした。たまたまですが、「紅楼夢」の舞台準備を垣間見ることもでき、想像を超える有意義なひと時となったものです。
加えて、先に述べた広州実験中学校での討論会では中国側の教師陣と未来に向けての真摯な意見交換ができました。中でも「AI時代における教育の変革トレンド」についての議論は目の覚める思いに駆られたものです。なぜなら、近未来においてはAIが社会をコントロールする可能性が高くなることは避けられません。AIが人知を超える可能性もあるはずですから。そうなった場合、生身の人間の意味はどこに見出すことができるのでしょうか。
更には、教育の役割はどう変化するのでしょうか。そうした問題意識を基に、率直な意見交換でできたことは、共に未来を創造する上でも、来るべき社会全体を俯瞰する上でも、示唆に富むものでした。
結論として、この度の訪中を通じて、全地球的視野で相互理解を深める努力の重要性を改めて確認できたと同時に、未来を切り開く次世代の教育と交流の必要性も強く感じ取ることができました。日中両国は引っ越しのできない隣国同士です。お互いの持ち味を生かしながら、世界共通の課題でもある環境、エネルギー、医療、教育、安全保障など、あらゆる分野での連携の可能性を模索したいものです。