「投資の神様」と異名を取り、個人資産は1700億ドルを超えるウォーレン・バフェット氏ですが、トランプ大統領の関税政策については「世界を敵に回す暴挙で、政策としても大失敗になる。特に、中国との関税戦争は最悪の結果をもたらしかねない。関税を戦争の武器にするような政策は世界を不安定化させるだけなので、断固反対する」と批判。「各国が得意の分野で実力を発揮し合うことで、世界経済は発展する。自由貿易こそが最強の武器だ」と主張しています。
そんなバフェット氏は、先見性と技術力を有するアメリカ企業の株を長期保有することを投資の眼目に据えてきました。彼が率いる投資会社「バークシャー・ハザウェイ」は、そうしたバフェット氏のお眼鏡にかなった企業として、アメリカン・エキスプレス、バンク・オブ・アメリカ、アップル、コカコーラ、シェブロンなど200社余りの企業の株を大量かつ長期に保有。
しかし、近年、例外的に海外企業の株にも熱い視線を注ぐようになってきています。例えば、中国の電気自動車BYDや日本の5大商社の持ち株比率を大幅に増やすようになりました。バフェット氏曰く「将来、中国はアメリカを抜いて世界最大の経済大国になる。過去50年、60年に中国が成し遂げたことは奇跡と言える。8億人を貧困の極みから救ったのだから。しかし、理解すべきは、中国人はアメリカ人と同じように刻苦奮闘し、目前の奇跡を手にしている事実だろう」。
一方、バフェット氏は2020年から三菱商事、丸紅、三井物産、伊藤忠商事、住友商事の株を保有するようになりましたが、2025年4月の時点で、これら日本の商社株の持ち株比率を10%近くまで引き上げたことを明らかにしました。
しかも、同時に総額900億円に達する円建て社債も発行しています。実は、バフェット氏によれば、「日本の総合商社は多様な業種の産業に関与しており、世界的なサプライチェーンを保有している強みがある」とのこと。更には「地政学的なリスク分析に長けており、貿易摩擦に対する高い耐性を備えている。また、自社株買いや株主への配当を積極的に行っている」とも評価。
言い換えれば、日本の商社にはトランプ関税に対する抵抗力が備わっていると分析しているわけです。世界的には一方的な“トランプ関税砲”によって不確実性が急速に高まっているように見られますが、「投資の神様」の見方では、日本は例外的にサバイバルする条件を整えていることになります。
先の読めない時代ですが、バフェット氏の先読み投資戦略は天才の域に到達していると言わざるを得ません。本年8月で95歳になりますが、個人資産は世界でトップ5本の指に入っています。他の大富豪と比べ圧倒的に多額の資産を慈善事業に投入しているため、総合的に判断すれば、間違いなく世界1の資産家といえるでしょう。
ところが、今年5月の総会では想定外の重大発表がありました。何かと言えば、「2025年末をもって会長の座を降りる」との発言です。これまで所有していたバンク・オブ・アメリカの株式70億ドルを手放しました。優良株の長期保有を投資の大原則にしてきたバフェット氏がアメリカを代表する金融株に見切りをつけたわけです。
加えて、アップルの株もほぼ半分にあたる500億株を売却。どう考えても、迫りくるアメリカの経済破綻を回避する手立てを講じようとしているに違いありません。その意味でも、間もなく95歳のバフェット氏の言動には注目する必要があります。なぜなら、自身の健康長寿があってこそ、企業への投資にも健全な判断が下せるからです。
実は、バフェット氏は自らの健康長寿と投資の大成功の秘訣を率直に語っています。
第一、「よく眠ること。最低8時間は熟睡します。良い眠りは長生きの元です」。
第二、「週二回はトランプでゲームを楽しむこと。記憶力を維持する上で欠かせません」。
第三、「予定表には常にゆとりを。ギシギシのスケジュールはご法度です。自分の自由になる時間ほど大切なものはありません」。
第四、「読書を欠かさないこと。毎日、5、6時間は本を読み、自分の頭で考えます。ビジネスや投資のチャンスを得るヒントを得ることになるからです」。
第五、「感謝の気持ちを持ち読けること。食事や運動よりも大切です。家族や同僚、周りの人々があっての自分ですから。自分が愛する人や自分を愛してくれる人をどれだけ身近に見出せるかが人生の成功を決める最大の要素です」。
1965年に倒産寸前の繊維会社を買収し、失敗と成功を繰り返しながら、今では資産価値1兆ドルを超える超優良会社に成長させたバフェット氏の生き方からは時を超えて学ぶべき点が多くあります